付ける薬はなくていい。


究極のバカ


好きなもんなんて沢山あるよ。
糖分はもちろんだし、酒だって好きだし、豪華な飯は何でも食う。
グッとくる女もそこそこいるし、パチンコもまぁ、生活の一部。

…何か俺、駄目な大人の見本みたいじゃない?

いやいやいや、一応仕事してますよ?
そうそう、仕事だってまあまあ楽しい。


好きなものは、譲れないもの。


でも、より好きなもののためなら譲ることができたりもする。

そう思わない?





「好き」

土方は己の耳を疑った。

久々の非番の日、着流しを引っ掛けてふらっと町に出たら、銀髪の男が声をかけてきた。
そこまでは、普通だった。
相変わらず人を変な呼び方で呼び止めた所までは。


「…なんつった?」
「好き」

どうやら、聞き間違いではなかったらしい。
気でも触れたか。

…いやいや、こいつも一応は一般市民の端くれ。
いきなりそれは良くないだろう。
俺は広い心の持ち主。

「…何が?」
「うん、糖分」

ああ、ほらな?
有らぬ誤解で善良な一般市民を疑うべきじゃあねェ。

「そーかそーか。そんで?」
「うん」


「こないだね、偶然お前が今日非番だって聞いたんだ」

突然話が飛んで、土方は怪訝な顔をしたが、そのままにしておいた。

「だから今日は仕事入れないでね、パチンコ行くのもやめた」

「…だからって何だ?」

「で、ババアが珍しく昼飯おごってくれるって言ったんだけど断ってきた」

「何で」

「さっきおねーちゃんがどっかでパフェでも食べないかって誘ってきたけどさよならしてきた」

「…あーそーかい」
生返事をしながら煙草を銜える。

土方は段々煩わしくなってきていた。
何で全く意味のないことを延々と聞かされにゃなんねーんだ。
滅多にない折角の非番なのに。


「何でか分かる?」
「だからさっきから何でか聞いてんじゃねェかよ」
苛立ちながらも言うと、銀時はんー、と曖昧な返事を返してきた。

「土方って休みの日少ないよね」
「は?」

また話題が飛んだ。
何なんだ一体。

「会うときはいっつも隊服だからさ」
「…そりゃァな」
副長が頻繁に休んでいては、下の隊士に示しがつかない。

「うん、だから、ね」
「…は?」
「んー…」
何が言いたいんだ、と問えば、何て言えばいいかなあ、と答えて銀時は首を捻る。

「…だから、まぁ、好きなんだよ」

結局そう結んだ。

「…何だよ、そりゃ…」
「わかってよ」
「わかるわけねェだろ!!」
土方が怒鳴ると、銀時は少し考える素振りを見せたあと、ぽん、と手を打った。

「なぁな、何か食べ行かね?」

「…は?」
「な」
「な、じゃねェよ」
「決定決定」
有無を言わさず土方の手をとり、銀時は歩きだす。

「どこ行くんだよ!」
「ファミレスとか?」
行きたいトコある?――などと当然のように問われ、土方は頭を抱えた。
そんな土方の様子を気にも留めず、銀時はずんずんと歩いていくのだった。



「今日のご予定は」
「…いや、別に」
にゅるにゅると親子丼の上にマヨネーズをかけながら、土方はそう答えた。
普段みっちり仕事を入れているから非番の日はむしろ物足りないくらいで、
いつも何気なくぼんやりと過ごしてしまう。
たまに町をふらふらすることもあるが。

銀時はハンバーグにナイフを入れながら楽しげに口を開いた。
「はいはーい。銀さんに提案があるんですが」
「折角ですがお断わりします」
「なにそのやんわり断る感じのマニュアル的回答。
内容くらい聞こうよ。まずはそこから始めようよ」
「なんか聞く気も起きないっつーか…」
「だからそれじゃなんも始まんないっつーの!もうちょっとさーなんつーの?心?オープン?」
「えー…」
「えーって何!えーって!」
「めんどくせー…」
「聞くだけでもめんどくさいってどこまでひどいんだお前!」
「…聞くだけ聞いとく」
不服そうに言ったのだが、ぱ、と銀時は表情を明るくして、高らかに言った。

「デートしよ」
「却下」

2秒で終わった。



「何!なんなの!速答ですか!考える間も無しですか!」
「んなモンあるかァァ!大体何だデートって!男二人で?きもい!超きもい!」
「うわっ何!何なの超きもいとか!ひどくない?ちょっとコレひどくない?」
「お前の頭ん中がひどいことになってんじゃねーか!
とうとう中までくるっくるパーマかかったのか!このパー!!」
「俺のパーマは天然だァァ!ていうか中までパーマって何!?
ありえないからソレ!ありえないから!」



「…お客様」


ウェイトレスさんの笑顔は、ちょっと恐かった。



「お前のせいだ!」
「いーやお前だ!」
高速で食事をかっこみ、逃げるようにファミレスを出てきた二人は、
ぎゃーぎゃーと言い争いを続けながら町を歩いていた。
道行く人々の注目を集めているが、本人達は全く気付いていない。

「大体お前が…!」
「つーかテメェが…!」

「…――!」
「…――!!」





「…」
「…」

ずっと大声で喚き続けていた二人は、今はぐったりと公園のベンチの背もたれに身を預けている。

「…なァ」
銀時が口を開いた。土方は怠そうに上を向いたままの銀時の方を見る。
「…何」


「俺ね、すげえ、好きなんだ」


「…主語が無ェ」
土方は、自分の方を見ようとしない銀時から視線を逸らし、呟く。

銀時はゆっくりと、
土方を見た。


「…言っても良いの」


「…っ、」

「俺が言った瞬間にね、土方の逃げ道は無くなるよ」

分からない訳、無い。
気付けば本当に簡単なことの筈だ。

分からないフリは、出来なくなる。


「逃げられないよ。はぐらかせないよ」


「それで、いいの」


「だったら言うよ。俺は言いたいから」


「好きだから」


沈黙が、流れる。


「…」


「…」


「…うん」

ぴくり、と土方の肩が動く。

「まぁ、…まだいいか」
す、と銀時は立ち上がる。
土方は何か言いたげに口を開くが、言葉は出ない。
銀時はくるりと土方の方を向く。


「な。…デート、しよ」


笑って言う銀時に。





「…馬鹿じゃねえの」


消え入りそうな声で、土方はそう言った。






終





実際、選択肢も逃げ道もないけど




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