認めたくない、こんな感情。


キスの味



担任は、授業中でも煙草をふかして生徒の健康を害するのもお構い無しの最低野郎だった。


死んだ魚のように濁った目でやる気も無く授業をし、

クラスでの問題はどうでもよさそうにあしらい。


「おーぐし君、あとで提出物集めて持ってきて」


―――そして何故か俺をこき使った。



放課後。
グラウンドや体育館から、部活動に励む生徒の声が響く。
そう、本来なら彼も、今頃は体育館に居たはずなのだ。

この上なく不機嫌な顔で、土方は化学準備室の扉を叩いた。

「どーぞー」
気の抜けた声。
がら、と扉を開け、中に入り、散らかったデスクにどさ、とレポートの束を放る。

「…提出物です」
「はァい、ごくろーさん」

銀時はやはり土方を見ようともせず、ひらひら、と力の抜けた手を振る。
些か苛立ち、ふいっと背を向ける。

「失礼します」
「んー、ストップ」

ぴた、と足を止める。

「…なんですか」
「はは、そう嫌そうな顔すんなよ」
「すいません生まれつきなんで」
「世の中渡ってけないよ〜?」
「…で…なんですか」
「まぁまぁそう急くなよ、どう?一杯」
コーヒーメーカからこぽ、とコーヒーをカップに注ぐ銀時。
香ばしい香りが立ち込める。
「…結構です」
土方は嫌そうな顔を隠そうともせず、言った。
「砂糖は?」
聞いてない。
「…結構です!」
「土方はブラック派かー。苦くない?俺スティック五本入れるんだけど」
「こんの糖尿予備軍がァァ!!いらねェっつってんだよ!!これから部活が…!」

コト、とデスクにカップが置かれる。

「どーぞ」

「…ッ!」

銀時は、にやっと笑った。


担任は、授業中でも煙草をふかして生徒の健康を害するのもお構い無しの最低野郎だ。


そう今も、目の前で。


土方は未だ熱いコーヒーを啜る。
気を付けないと舌を火傷しそうだった。

「…」

銀時は煙草をふかしながら、先ほど持ってきたレポートにスタンプを押している。
時折手が止まったかと思うと、トントン、と煙草の灰を落としている。

間違いなく、碌に見ていない。

その様子をじっと眺めて、土方は口を開いた。
「…ちゃんと見てんのか、アンタ」
「んー?見てないよ。わかるでしょ」
「…最悪だな」
「だって俺が見る必要なんかないじゃん。要はやってあればいいの」
「…は」

「結局コレが何になるって、書いた奴のためになるわけだろ?
真面目にやるのも適当にやるのもみんなの自由。俺は提出したかどうか見るだけ」

ぽん、と最後のレポートにスタンプを押す。

「まぁ、面白いやつのは結構読むけどね」

言いながら、とんとん、とその束を揃えた。


「今回のも中々面白かったよ、土方」


「…―――ッ!!」


思わず、カップを落としそうになった。

しばらく動揺したあと、土方は温くなっていたコーヒーを一気に呷った。
どん、とカップを置くと立ち上がり、背を向けるが。

「土方」

ぴたり、と止まる。


ぺた、ぺた、と歩いてくる音。


嫌な予感がする。
足元が崩れ落ちそうだ。

どうして、動けない。


銀時が目の前に顔を出す。その眼が見開かれた。


「…な、んつー顔してんの、お前」


か、と血が上るのが分かる。
顔が熱い。

もう逃げ出したい。


違う、
動揺してなんかない。

嬉しかった、とか、
そんな筈無い、から、


「…っ、失礼、しますッ…」

飛び出さんばかりの勢いで準備室を出ようとする。

しかし、それは適わなかった。


…銀時に腕を掴まれていた。


「…な、」
身を捩って逃げようとしても、その力は強くて。




何か、聞こえたような気がするが、


…もうなにも、かんがえられなかった。





コーヒーも。
煙草も。

苦くて、苦くて。

甘党の癖に、何で煙草なんか吸ってんだ。


苦くて、苦くて。

それでも、


どこか、甘い。





初めて、煙草を吸った。
あの日と同じだけれど、違う味。

くらくらとした。



終





3Zは犯罪臭がするから困る




>back