誰より何より、
護りたいもの
「…とまぁ、そこがこうなってああなるわけだ。以上。
模試まできっちり勉強しといた方がいいぞー。…ま、やるかやらないかは自由。
ん、質問無ければあと三分でチャイム鳴るから終わり」
チョークの粉で白くなった手をぱんぱんとはたきながら、銀時はやる気なさそうに言った。
一瞬だけ教室がしいん、と静まる。
誰の手もあがらないのを見て、日直がお決まりの号令をかけ、授業が終わる。
「チャイム鳴るまであんまり騒ぐなよー」
一応声をかけるが、すでに生徒たちは雑談に興じている。
まぁ青春だしね、とよく分からない理屈を捏ねて、銀時は騒がしい教室を出た。
廊下を歩きながら、窓から空を見上げる。
澄んだ空は、誰が見ても快晴。
屋上なんかは気持ち良いだろうなァ。
ぼんやりと考えていると、前方に可愛い可愛い教え子の後姿。
銀時はじっ、と彼を見つめる。
まったく気付いていない彼は、つきあたりの階段がある場所を曲がっていった。
…ふうん?
はいはいはァい。
彼の教室の位置と今現在の進行方向は逆。
休み時間はあと五分。
教科書を借りに行ったにしても、急いでいる様子は皆無。
今日は快晴。
イコール?
銀時はにやり、と口の端を上げた。
キーンコーンカーンコーン。
終業のチャイムではない。始業のチャイムである。
土方は屋上で空を見上げた。
澄んだ空は、誰が見ても快晴。
こんな日には、どうでもいい授業なんか受ける気にならない。
ぺたりと座り込んで、気持ちがいいので一服、と、ポケットを探り、慣れた手つきで煙草を咥える。
「げんこーはんたいほー」
突然、能天気な声が響いた。ビクッと土方の背が跳ねる。
「な…っ」
慌てて振り返ると、すぐ近くににんまりと笑う顔。
「はぁい、没収〜」
すぐさま煙草を取り去られ、土方はいまいましげに舌打ちした。
「態度悪いよ、多串くん。いつもは優等生なのにねー」
「いい加減テメーのクラスの生徒の名前を正しく覚えろ俺は土方だ」
「言葉遣いも激悪だねー」
「せんせー自分のクラスの生徒の名前は正しく覚えたほうがいいんじゃないでしょうか俺は土方です」
「あっはっは面白い面白い。――ね、火」
ちょうだい、と言いながら銀時は手の中の煙草を咥える。
土方はポイッと100円ライターを放る。銀時はそれを受け取り、煙草に火をつけた。
「せんせー生徒の前で喫煙はどうかと思います」
「んー?…誰かさんが人気の無い屋上で堂々と喫煙しようとしてたのを揉み消そうと思って」
これ俺のね、と言って笑う。土方は眉を寄せ、フイッとそっぽを向いた。
少しの沈黙。
「…アンタ、授業は」
「先生には空き時間があるもんだよ。ていうかソレ、俺の台詞だよね」
「…」
「いい天気だったから、みたいな?」
「…」
「俺は土方を見かけたからだけどね」
「…っ!」
土方が振り返ると、開けたままの口にかぽっと煙草を差し込まれた。
「未成年喫煙ー」
銀時はケタケタと笑う。
土方は、煙を、肺に満たす。
ゆっくりと、紫煙を吐く。
「…吸わせてんじゃねえか」
そしてにやりと笑いながら、
「こりゃあテメェのだろ?」
と言って煙草をぽい、と屋上のコンクリートの床に落とした。
「あー、あーおい、やめろよなー。屋上立ち入り禁止になんぞ」
銀時は慌ててそれを拾い、携帯灰皿に押し込んだ。
土方はクックッと笑っている。
澄んだ空は、誰が見ても快晴。
不意に訪れる心地良い沈黙。
このままでいたい、と思わせるに充分な柔らかい空間。
それでも、ふっと流れる寂しさは。
「…もう、あと一年も無いな…」
「…ああ」
ずっと、このままでいたいけれど。
ずっと、この空間に浸っていたいけれど。
誰より何より、君を護っていたいけれど。
「…なあ、……ここに、」
居ろよ。
その言葉が続かない。
縛りたいわけでは、ない。
護りたい、だけ。
土方が、不思議そうに銀時を見る。
「…ここに?」
護りたいのは、君の未来だから。
銀時は寂しげに微笑んで、ゆっくりと首を振った。
終
中途半端な話だなあ…
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