言葉は要らない。
無言
誰も、何も言わなかった。
攘夷派の凶弾に倒れ、病院に運び込まれた彼の顔は血の気がなく真っ青で、
その息遣いだけが白すぎる病室に響いていた。
葬式か何かのように神妙な顔をしていた近藤や他の隊士たちに、仕事に戻れと怒鳴った彼は、
今はもう眠りについている。
沖田はずっと、その寝顔を見ていた。
山崎はずっと、その傍らに控えていた。
無音の病室で、沖田が口を開く。
「…全く、馬鹿な人でさァ」
「怒られますよ」
「いつも言ってることだろィ。それに、今は聞こえてねェ」
「…」
また沈黙。
ふわ、と風がそよぎ、開け放った窓の白いカーテンが靡く。
眠る彼の髪が揺れた。
「…葬式でもねェのに、湿っぽくていけねェや」
沖田はがたり、とパイプ椅子から立ち上がり、すたすたと病室の出口へ向かった。
「…ど、どこ行くんですか?」
山崎が些か慌てたように問う。
沖田は振り返り、笑った。
いつもより、どこか力なく。
衝撃と失血で、普通の人間ならすぐに意識を飛ばしてもおかしくない状態で。
彼はいつまでも刀を構え続けた。
怒声をとばし続けた。
真っ直ぐに立って、前を睨んでいた。
―――そんなに、死にてェんですかい?
沖田の言葉に、
―――死ぬ気は、無ェよ。
笑みさえ浮かべた。
「…どうして、」
言葉が続かない。
言いたい事は、沢山有るのに。
言葉に出来ない。
…あなたは、いつもそうだ。
何も言わずに、何もかも済ましてしまう。
そして全て終わった後で、
微かに、笑うだけなんだ。
沖田が病室を出て、どれくらい経っただろうか。
微かに、しかしどこか焦ったような足音が響いてきた。
山崎はそこでようやく、沖田がどこへ行ったのかが分かった。
ガラ、と扉が開き、
「土方…!」
予想通り、青ざめた銀時が飛び込んできた。
傍らに居た山崎には目もくれず、白いベッドに駆け寄る。
近づこうとすると、ぐい、と腕を引かれた。
「…隊長?」
沖田はくい、と出口を指差す。
「え?」
そのまま歩き出したので、山崎は慌てて後を追った。
「隊長?」
「居た堪れなくなるぜィ」
沖田はてくてくと歩いていく。
「見張り、は、」
「旦那が居るだろィ」
「…そうですけど」
色々まずいんじゃ、と山崎は言う。
「…心配無ェさァ」
沖田も山崎も、それきり黙った。
静かな静かな病室。
「…ホント、何してんの、お前」
ぽつりと、呟く。
「何で、こーゆう、さあ」
彼は、眠ったままだけれど。
「…ばかじゃ、ねえの」
ぽすん、と顔を埋め、呟く。
「…うるせー、よ」
掠れた声に、びくり、と体が震えた。
ばっと顔を上げると、その黒の眼が銀時を見ていた。
「…ひ、じ」
「…何て顔、してんだよ、お前」
彼は、そう言って―――笑った。
笑ってんじゃねぇよ、ちくしょう。
「お前、こそ、…何だよ、そのナリは、よ」
「…ああ」
「ばかじゃねえの、ばーかばーか」
「…銀」
「…ばかやろー」
「…銀時」
「…頼むから…ホントマジで、…やめろよな…」
「………ん」
それきり、二人は黙った。
終
同じようなネタがどこかに…
>back