君が居なくちゃ物足りないんだ。
チョコレートパフェ
うららかな昼時の町中。
がやがやと通り過ぎる人の波。
その中に、目立つ黒の隊服に身を包んだ男が一人。
彼はいつもの様にいつもの時間にいつもの場所の見回りをしていた。
「―――や、多串くん。いいところで会ったね」
いつもの白の着流しに身を包んだ銀時はへろっ、と右手を上げた。
いつもの様に土方はぎり、と咥えていた煙草のフィルターを噛んだ。
「丁度甘味屋の前だしさー。もうコレ運命だよ運命。さ、入ろ」
「…一つ聞くぞ、コラ」
「ん?どーぞ?」
「何でテメェはいつもいつもいつも丁度甘味屋のまえで俺と運命的に出会うわけだ?」
「…や、だから運命でしょ」
「明らかに意図的だろうがァァァァァァァ!!!」
結局、
いつも通りに二人は向かい合ってテーブルにつくのだ。
「でね?俺今そーとーピンチなわけね?お財布の中がすっからかんなわけね?」
銀時は豪華なチョコレートパフェを食べながら言う。
「…いつものことだろうがよ…」
はぁ、と土方は煙とともに溜息を吐いた。
「お願いっ!後で絶対返すからさっ」
その台詞も何度聞いたか分からない。
「…期待しねぇでおく」
そんな二人に近づく怪しい影が一つ。
「たかられてやすねィ」
沖田だった。
「うおっ、テメェ総悟!」
「見回りサボってなにしてやがんでェ土方さん」
「そりゃこっちの台詞だコラァァァ!!」
「キミんとこの副長借りてるよ〜」
銀時はさして驚いた風も無く、ひらひらと手を振る。
沖田は土方に掴みかかられながらも、全く気にせずにニヤリと笑った。
「旦那ァ、レンタル料金高くつきますぜ。お持ち帰りは別料金でさァ」
「ん〜今月ピンチなんだよね〜。ツケといてくれる?」
「オイィィィ何の話だコラァァァァァァ!!!」
「まぁまぁ多串くん、チョコパ一口あげるから。はいあーん」
「いるかボケェ!」
土方の視線が銀時に向かったと同時に、沖田はさっと土方の手から逃れた。
「じゃ、土方さん。あんまり遅くなんないようにして下せェよ」
「ん?あっ、コラ、待て総悟!」
「お先に屯所帰りまさァ。
近藤さんにはちゃぁんと言っとくんで安心して犬のエサ食ってていいですぜ」
「土方スペシャル馬鹿にすんなァ!って、ちょっオイ、マジで待てって…!」
「ちょっとちょっと多串くん」
銀時は沖田を追おうとする土方の腕を掴んだ。
「んだよ、俺は仕事に…」
「駄目」
「はァ!?」
掴む手にぐ、と力が込められた。
「食べ終わるまで居て」
何でだよ、と口に出そうとした土方は。
…結局黙って座った。
「副長、出来ましたよ」
そう言って山崎は、見回りから帰ってきた土方に書類を差し出した。
「…なんか頼んどいたか?」
不審に思いながらも土方はそれを受け取る。
「え?沖田隊長から、作って副長に渡すように言われたんですけど」
「…あァ?」
その書類には、こう書いてあった。
『市中見回り経路変更』
「全員が今までと違うルートとるように作れって言うもんだから、頑張ったんすよ俺」
「…」
何がしてぇんだあいつ。
…山崎を揶揄いたかっただけなのだろうか。
「やま…」
「どうですか?ソレ」
期待に満ちた表情に、沖田の冗談だ、とも言えず。
「…良いんじゃねェの…」
土方はそう言った。
書類を片手に副長室へ戻ろうとした土方の前に、沖田がひょいっと顔を出した。
「あァ、土方さん。ソレ受け取ったんですかィ」
「総悟…テメェどういうつもりだ?何企んでやがる」
「心外ですねィ。俺はヒモの旦那の魔の手から土方さんを救ってやったつもりなんですが」
「何?」
土方は眉を寄せた。
「あの甘味屋をいっつも決まった時間に通るから待ち伏せされてたわけでしょう」
「…まぁ、な…」
「ならルート変えりゃァ良いだけのことじゃないですかィ」
それは、
そうなのだけれど。
「…あー…」
「煮えきりませんねェ。感謝の言葉の一つくらい無ェんですかい」
「ん…ああ…」
「今度何か奢ってくだせェよ」
「……調子乗んな」
土方は煙草を咥え、火をつけた。
そして、「いつものこと」が無くなって。
一週間が過ぎた。
土方と沖田はようやく慣れてきた景色を見ながら歩いていた。
「やっぱり違う景色も良いですねィ。これからもちょくちょくルート変えましょうや」
「いちいち考えんの面倒くせぇだろが」
「山崎にやらせりゃいいじゃないですかィ」
「お前な…」
こいつは鬼か(自分棚上げ)、と土方が思ったそのとき。
「いいいいいいいいいいたァァァァァ!!!!!!」
響いた叫び声。
それは久々に聞く声だった。
「なっ、…」
ブロロロロ、と原付に乗りながら、
物凄い形相の銀時が現れた。
急ブレーキをかけて乱暴に原付を降り、唖然としている土方に歩み寄る。
いつもとは違うその顔で、口を開く。
「なんでこないの」
土方はその言葉の意味が理解できない。銀時は土方の腕を掴んだ。
「…ほら、いくよ」
言うやいなや腕を引かれ、どさっと原付の後ろに座らせられる。
「ちょ、」
そして銀時もどかっと原付に跨り、
すぐに走り出した。
その場にぽつんと置き去りにされた沖田は、
「…煽っちまったかねェ」
ぽつりと呟いた。
無茶なスピードで飛ばす銀時に、土方は必死に叫んだ。
「っ、オイ、どっ、こ行くん、だよ!」
「甘味屋」
「っはァ!?」
銀時はそれきり一言も喋らない。
そして言った通りに「いつもの」甘味屋に着いた。
「降りて」
銀時は原付から降り、未だ呆然とする土方に言う。
「…な」
「はやく」
そして有無を言わせず、腕を引く。
「っ、ちょ、まっ…」
戸惑ったままの土方はずるずると引きずられ、そのまま座らされる。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
何事にも動じないウェイトレスを尊敬した。
「チョコレートパフェ一つ」
銀時はメニューも見ずに言う。
異常な喉の渇きを覚えた土方は、アイスコーヒーを頼んだ。
「かしこまりました。チョコレートパフェがお一つ、アイスコーヒーがお一つ。
以上で宜しいですね?」
ウェイトレスが去ってから、
沈黙。
だらだらと沈黙が流れた。
居心地の悪さに土方は煙草に手を伸ばしかけたが、止めた。
銀時は窓の外を見ている。
「…何で、いきなり来なくなったの」
突然銀時が口を開いた。
―――「何で来ないの」
ああそうか、と土方は妙に納得した。
何か言おうとすると、いいタイミングなのか悪いタイミングなのか、
ウェイトレスがパフェとコーヒーを運んできた。
迷わずに銀時の前にパフェを置く。
「では、ごゆっくりどうぞー」
―――ウェイトレスが去っても、銀時は動かない。
いつもなら、すぐにパフェに飛びつくのに。
土方は乾く唇をコーヒーで濡らし、口を開いた。
「…食わねェ、の」
すると銀時はすっ、と土方にスプーンを差し出した。
「…?」
土方が不審そうに眉を寄せると。
「くわせて」
爆弾発言が飛び出した。
―――「食わせて」?
土方はきっかり三秒ほど停止し、
かぁっ、と顔を真っ赤にした。
「ッな、何言っ…!!」
「食わせて」
銀時の眼は至極真剣だ。
そんなこと。
「いつも」はやってなかった。
畳み掛けるように銀時は喋りつづける。
「俺今すげぇイライラしてんの」
「実に一週間ぶりの糖分を目の前にしてるわけ」
「ついでに一週間ぶりの多串くんを目の前にしてるわけ」
「んで今色んな飢えを一気に満たそうとしてるわけ。だから食わせて」
なんだそれ。
土方は頭を抱えたくなった。
しかし銀時は土方にスプーンを差し出したまま動こうとしない。
なんだこれ。
なんだこの状況。
なんで、
何で俺は。
土方の感覚は―――麻痺した。
震える手で差し出されたスプーンを取る。
生クリームとチョコレートソースを掬う。
―――我に返ったら負けだ。
そして、待ち受ける口に、
ゆっくりと。
「…うまい」
銀時は、眼を細めて笑いながらそう言った。
終
何してんだ
>back