会いたくて仕方ない。
指名手配
久しぶりに非番だった土方は、着流しを引っ掛けて町に出ていた。
たまには仕事を忘れ、ただ町を歩くのもいい。
ついでに煙草を買って、マヨネーズを買って。
あとは本屋で本でも買って、部屋に戻って読書をしてもいいか、と。
つらつらと平和なスケジュールを考えていたそのとき。
「見つけたアルゥゥゥゥ!!」
土方の平穏はその叫び声の主にぶち壊された。
「うおおおおおお!!??」
ずしゃあああああああ。
神楽は一直線に土方につっこみスライディング。
砂煙が舞う。
「…っ、ゲホッ。オイ、コラ、テメー、チャイナ!!何しやがる!」
「見つけたアル酢昆布ゥゥ!」
ガッチリと土方の腕を掴みながら、神楽は眼を光らせた。
「酢昆布だァ?何言ってんだ」
「良いから立つネ!そしてついてくるネ!」
「あァ!?」
言うなり神楽は土方の腕を掴んだまま立ち上がり、無理矢理土方を立たせた。
そのままぐいぐいと引っ張っていく。
「っオイ!何処行くんだよ!」
「そんなの決まってるネ!銀ちゃんのとこアル」
「はァ!?」
何でそんなこと決まってんだ。
これから俺は煙草を買って、マヨネーズを買って。
本屋で本でも買って、部屋に戻って読書をするはずだ。
銀髪のところに行く予定なんぞこれっぽっちもない。断じて。
「だから…どういうことだよ」
「銀ちゃん、オーグシが非番だって小耳に流し込んだアル」
「土方だ。小耳に流し込んでどうすんだ。…ってどっから嗅ぎ付けやがったんだあの野郎」
「んで、銀ちゃんの目がきらめいたネ」
「アホか…。…で?」
「んーと、
『多串くん見つけて来い!連れて来たら新八には給料、神楽には酢昆布やる!』
って飛び出してったヨ」
土方は頭を抱えた。
アホかあいつ。
本格的に新八が哀れに思えてきた土方だった。
「…お前等、仕事は?」
「最近はポッキリアル」
「サッパリだろ。食ってけてんのか?」
「銀ちゃんが日雇いバイトしてるネ」
「…食ってけてんのか?」
「銀ちゃん最近ファミレスのパフェだけで生きてるネ」
「オイィィ!ありえねえだろ!!」
「『まずは糖分』らしいアル」
「まずはどころか糖分しか取れてねーじゃねえか!!」
「…だから、ちょっと息抜きさせてあげてほしいアル」
神楽はぽつりと呟いた。土方は驚き、まじまじと神楽を見つめる。
「…お前…」
「あとマトモなご飯が食べたいアル。なんか作れ」
「そっちが本音かァァァ!!」
仕方が無いので(というか哀れなので)、
何かまともなものを食べさせるため、土方は神楽と大江戸ストアに向かった。
途中で「疲れたアル」と神楽がダダをこね、土方の背中に飛びついた。
降ろそうとしてもがっしりと掴まれ離れないので、
人々の視線に耐えつつ、亀の甲羅のように神楽をくっつけたまま店に入って行った。
…まぁ、本来の目的である煙草とマヨのついでだ。
とかなんとか言い訳がましいことを考えながら、食材を買い込む。
「オーグシー、アレ買って。高級しゃぶしゃぶ肉」
「土方だ。調子乗んな」
「ケーチ」
「ていうかいい加減降りろ」
「お腹空いて歩けないアルー」
「…」
結局そのままレジに向かい、店員に不信な目で見られながらも店を出た。
「あああ!多串君みっけー!」
万事屋が見えてきた頃、能天気な声が響き渡った。土方は恐る恐る振り返る。いた。
「…銀髪」
「銀ちゃーん」
「神楽、なに亀の甲羅みたいなことになってんの」
「ちゃーんと捕まえといたアル」
「グッジョブ」
銀時と神楽はビッ、と親指を立てた。土方は溜息をつく。
「…テメェ、どういう教育してやがんだ。いきなり飛び掛ってきたぞ」
「あー見つけたら逃がすなって言っといたから」
「…俺を何だと思ってんだよ」
「だって追いかけると逃げるじゃない」
「あのなぁ、」
「今日も非番だって教えてくれなかったし」
「…んで、テメェに、」
教えなくちゃいけねぇんだ。
言いかけて、土方は言葉を止めた。
…なんで、止まるんだよ。
その様子を見て、銀時はにやぁっと笑った。
「愛が足りないよ、愛が」
「…っ、はなっからねェよ、んなもん!!」
ぎゃいぎゃい言いながら、三人は万事屋の玄関を跨いだ。
がさり、と大量の食料が入ったスーパーの袋を見た銀時は、不思議そうに土方を見た。
「何?コレ」
「飯」
「飯アル!」
「いや幾らなんでも食べ物かどうかぐらいはわかりますから。じゃなくて、え?何で?」
土方がバツのわるそうな顔をして目を逸らす。
「オーグシの奢りアル〜♪」
神楽が機嫌よく言う。それを聞いて銀時は眼を見開いた。
「え!?なに、多串君、飯買ってくれたの!?」
「多串じゃねえっつの…そこのが煩かったんだよ。テメーも碌なもん食ってねーんだろ」
ぼそぼそと零す土方。銀時は嬉しかったが、ちょっと複雑でもあった。
「…(コレじゃ銀さんヒモみたいじゃん…)うん、ありがと、ゴメンね」
情けない。ちょっとへこんだ。
「ちゃんと仕事しやがれよ」
更に追い討ちされた。
台所からふわりといい匂いが漂ってくる。
…え、なんか銀さんすげえ幸せな思いしてない?
全然仕事入らなくて、それでもなんとか日雇いの仕事見つけて雀の涙みたいな報酬貰って。
とりあえず生活ある新八に給料出して、神楽の飯代に吸い取られて、家賃払って。
残ったなけなしの金でパフェ食べて。
(…これがいけなかったかな)
そろそろそれも限界かなーって思ってたら、土方が非番だって小耳に挟んで。
居ても立ってもいられなくなって、飛び出した。
会いたかっただけなんだ。
話したかっただけなんだ。
まぁ、ちょっと一緒に過ごしたいとかも思ったけど。
でも、会って話せて、それだけでもう充分なのに。
いま彼は台所で飯を作ってくれている。
なんだよ俺。
幸せ者じゃん。
「…多串くーん」
「…あァー?」
「大好きー」
返事は無かった。
しばらくすると新八も帰ってきて、台所の土方を見てこれ以上ないほど驚いていた。
弱み握られて脅されでもしたんですかと半ば本気で聞いてくる新八に、土方は苦笑を漏らすしかなかった。
久々に潤った万事屋の食卓。
土方以外は眼をキラキラさせてそれを見ていた。
とくに銀時は、神楽を拝みたいぐらい感動していた。
だってなんか、アレみたいじゃん。
言ったら多分怒って帰っちゃうから言わないけど。
「神楽、お前サイコーだよ」
言うと、神楽はにんまりと笑った。
「酢昆布、忘れちゃ駄目アルよ」
その程度の報酬でこんなに幸せになれるなら。
いつでも彼を指名手配にしておこう。
終
は、恥ずかしい…
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