※真選組極道設定
それでも僕はあなたが好きです。
in the center of the world "I" say.
しゅる、と黒のスーツに腕を通す。
すたすたと畳の上を滑るように歩きながら煙草をくわえると、横からすっ、とジッポの火が出てきた。
土方は無言で煙草に火をつけると、ちらりと横を見た。
「山崎…ホストかお前」
「え、いや、そんな」
うろたえる山崎にくつくつと笑いながら、土方はまた歩きだした。
「近藤さんは?」
「組長のとこです。土方さんも呼ばれてます」
「そうか」
「はい。…あ、あの…また、銀の旦那…来てましたよ…?」
土方は顔をしかめ、「絶対に通すな」と言い放った。
山崎は何か言いたげに口を開いたが、結局「はい」と答えた。
「あ、あと…沖田さんの姿が見えないんですが」
「ほっとけ。その辺にいるだろ」
面倒そうに煙を吐く。神出鬼没、という言葉はきっと沖田の為にあるのだろう。
しかもどこからか出現するたびに面倒事を抱え込んでくる。
そして被害に遭うのはもっぱら土方だ。――無論わざとである。
沖田の数々の悪業を思いおこしている間に、組長―――片栗虎の部屋に着いた。
「組長、土方です」
「おう。入れ」
すぐに部屋の中に入ると、若頭――近藤と片栗虎が顔を突き合わせていた。
「何かありましたか」
「おう、まあ聞け。―――…栗子のことなんだがな」
突然飛び出したよく知る娘の名に、土方は少々驚いた。
「お嬢がどうか?」
「ちょっとな…」
そこで、片栗虎は珍しく言い淀んだ。土方は訳もわからず、黙って続きを待った。
―――何か深刻なことでもあったのだろうか。
「…お前、栗子を…どう思う」
「…は…?」
予想外。
「どう思うか聞いてんだ」
微妙に嫌な空気が漂う。―――逃げ出したい。
「どう思うったって…お嬢はお嬢だ。組長の娘で…妹みてェなもんだ」
ちくちくと刺さる空気を払うように、それに、と土方は続ける。
「アレだろ、七兵衛とかいう…堅気と一緒になるって大騒ぎしたばっかで、」
「そうだ。…そんでその時、襲撃に遭ったな?」
そう。混乱の隙をついて、何年も抗争を繰り広げてきた組に襲撃されたのだ。
何とか迎え撃ち、大した害は無かったのだが。
「…そんときお前、ずっと栗子を守ってたらしいな」
七兵衛は腰を抜かして震えていた。土方はそれを邪魔だと蹴り飛ばし、木刀一本で暴れ回ったのだった。
ここだけの話、守ったというのは結果論で、
とりあえず暴れていたら栗子のまわりに誰も居なくなったというだけなのだが。
黙っておくことにした。
「…まぁ…」
「惚れたんだそうだ」
さらり。
効果音はそんな感じ。
「…は…」
「お前に」
「…は?」
「…栗子にゃ小せェ頃から肩身の狭い思いさせてきちまったからな、
堅気の男と一緒になって普通の生活してェってんだから、俺ァまぁいいかと思って、
後釜は近藤に任して引っ込もうかと考えてたんだがな…栗子はお前に惚れたってんだ。
そうなると話は違ってくる、お前と添えるんなら組を継ぐとよ。で、だ」
「とっつぁん!次の組長は近藤さんだ、それだってさんざ反感かったが漸く形になるとこなんだ!
今更、」
「まぁ落ち着け、トシ」
近藤が口を開いた。土方はそれでも何か言い足りないようにしていたが、ぐっと黙る。
「…おう。まぁ確かにな、近藤からお前に変えるなんてなァ今更だ」
ただ栗子がな、と片栗虎は深いため息を吐く。どこまで甘いんだと、土方は心の中で舌を打った。
人を導くのは知略や策略ではない、才能なのだ。
それを持っているのは己ではなく近藤だと、土方は確信していた。
「なぁトシ…俺ァ、悪い話ではないと思うんだがなァ」
「何言ってんだ、ここまでくるのにどんだけ苦労したんだよ近藤さん!
…それに、俺には無理だ、アンタじゃないと」
「そんなことないぞ、トシならきっと…」
土方は首を振る。
「俺にはできない。その代わり、できる限りアンタをサポートするつもりでいた。
そのために土台をつくってきたんだ、今更ひっくり返せねェよ」
「…トシ」
「どうせお嬢の気紛れだ、なんとかなる」
してみせる、と土方は心の中で呟いたそのとき。
「お困りのようですねィ、土方さん?」
できれば一番聞きたくなかった声が聞こえてきた。
「…総悟、どこ行ってた」
沖田はにやにやと笑っている。どこかから話を聞き付けたのだ。
「どこだっていいじゃねェですかィ。…それより、良い解決法があるんですがねィ」
「…何だと?」
「八方丸く収まる一石四鳥の方法でさァ」
そんなものあるわけない。あったとしても、絶対何かある。
今までの経験から、そんなことはよく分かっていた。
けれど、つい、ついこの悪魔の囁きに耳を傾けてしまうのだ。
土方は己を呪いながらも、どんな方法だ、と悪魔に尋ねていた。
悪魔はこの上なく楽しそうに、俺に任せてくだせィ、と笑ったのだった。
「…総悟はどうしたァァァ!!」
土方は叫んだ。そう、…紋付袴を着て。
栗子が諦めたという話は上らず、組長の件は未だ揉めているが、
話はとんとんと進んでいってしまった。―――結婚の方に。
ハッタリ、つまりハッタリだったのか。土方は青筋をたてている。
信じた俺が馬鹿だった―――時間よ戻れ。頼むから。
必死の願いも虚しく、式が始まらんとした―――まさにそのとき。
「うわっ!ちょ、なにしやがる!」
「てめェ、どこのモンだ!うごっ…」
慌ただしい。異変を感じ、土方は立ち上がった。
何かが、
―――近づいて?
「襲撃かッ!?」
言うが早いか、木刀を掴んで走りだす。―――畜生、ボコる。
わーわーと凄まじい騒ぎの中に混ざろうとすると、がしっと袖を捕まれた。
―――青い顔をした山崎だ。
「駄目です、土方さん!これは…ッ」
「―――土方ァッ!」
騒ぎの中から、微かに、土方を呼ぶ声。
「畜生テメーら、どけっ、どけよ!」
―――銀の髪の男、坂田銀時その人だった。
“やめちまえよ”―――…男が発したその言葉が、土方の脳裏に蘇ってきた。
銀時は少しでも土方に近づこうと必死に手を伸ばしている。
「…んで、てめェが!」
「攫いにきた!」
言うなり銀時は人の波から逃れようともがく。
攫う?誰が?誰を?
混乱した頭で今の状況を冷静に分析すると。…イコール、こいつが、俺を。
「…何言ってんだ!言ったはずだ、テメェとは住む世界も生きる道も違ェんだ!
俺に―――構うな!」
「嫌だ!」
「―――な、」
「絶対ェ嫌だね!」
「な、んで、」
「忘れたんなら何回でも言ってやるよ!好きだ!それでも好きだって!」
しん、と辺りが静まり返った。
茫然とする組員たちと。
顔を真っ赤にした土方と。
逆に真っ青になった山崎と、栗子。
息荒く、土方を見つめ続ける銀時。
とても異様な空間だった。
す、と銀時が手を伸ばす。
「土方」
その名を呼んで。
この手は―――取っていいものなんだろうか。
すべてを捨ててまで、取る価値のあるものなんだろうか。
―――俺は。
土方が己の手を握り締めたそのとき。
「危ねェですぜィ」
…からん。
悪魔の声とともに、何かが投げ込まれた。
「…え、コレ、手榴だ」
ん、を言う前に、土方は銀時に腕を引かれた。そのまま包み込むように庇われる。
ずがーん。
爆発した。
…おそらく手製の偽物だったのだろう、威力は大したことはなかったが、中々の衝撃だった。
「…っオイ、大丈夫かよ!」
「…ん、ヘーキ…ちっと耳痛いけど」
そこで土方ははたと気付く。そうだ、近くには栗子もいたのだ。
「お嬢っ!」
急いで栗子を探すと―――泣きながら蹲る姿があった。
「七兵衛様!七兵衛様ァッ!」
見ると、その前には倒れている七兵衛がいた。銀時と同じように、爆発から栗子を守ったのだ。
―――やるじゃねェか。
こんな土壇場で男気をみせてくれるとは。―――栗子も、惚れなおさないはずがない。
ほっと一息つくと、突然後ろからぐわっと抱え上げられた。
「な、なにしやがる!」
「もう触ったから。貰ってくの」
「な、」
「このまま愛のランデブー、みたいな」
なんでだ。
なんでだァァァァ!!!
「―――行っちゃいましたよ、沖田さん」
「行っちまったねェ」
「どうすんですか!アンタが銀の旦那入れたり手榴弾なんか投げ込んだせいですよ!」
「うるせェよ山崎。何言ってんだィ、良いことずくしじゃねェかィ」
「…は?」
「組長は近藤さんに、旦那は土方さん貰って、お嬢は堅気んなって幸せに。
そんでもって俺ァ土方さんがいなくなって空いた幹部のイスにどっかり座るってな寸法で」
「結局自分のためじゃねェかァァァ!!」
…めでたしめでたし?
終
無茶苦茶な話だけど、前サイト10000打記念。
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