俺だけ見てればいい。


injurious invasioner



「抜け」

ちき、と音を立てて、白く光る刃が首へと向けられる。

「…何で?」

冷えた目をした土方を前にして、銀時はゆるりと笑った。

―――理由がない、と。


それを見て土方は不快そうに眉を寄せる。

―――理由?
―――理由、なんて。

「…必要か」

ただ、目の前に。
力と、刀があるだけで。

充分だろう。

そう、眼が言っている。


「…」

銀時は無言で、笑ったまま木刀に手をかけた。



金属がぶつかりあう、特有の硬質な音は聞こえてこない。
がつ、がつ、と鈍い音だけが響き続ける。

通常なら、刀と木刀などでは一瞬で決着がつく。

木と、刃物。

木で刃物は斬れないが、刃物は木を叩き折ることすらできる、筈だ。

まして美しく鋭く鍛え上げられた鉄の塊に、削り取られた木の破片が太刀打ちできる訳がない。

それなのに、何故何度も何度も刀を交えることになるのか。


一つはその「木刀」の特殊さが挙げられる。
妖刀「星砕」。通販という胡散臭い出所であるが、その名のとおり星をも砕く…ような、
怪しい…否、妖しい木刀である。
とりあえず、その辺の木刀よりは丈夫と言えなくもない、ということだ。


そしてもう一つ。


「―――刀、ちゃんと研いでんの?」


そう言ってせせら笑う――坂田銀時と言う男にも、要因がある。


土方は答えず、代わりに刀を振るった。


がっ。


―――まただ。
ち、と舌を打つ。


銀時はかなり身軽だ。
力のこもった大振りの斬撃は、ほぼ当たらない。飄々とした顔と態度ですいすいと避けていく。
だから自然と素早く鋭い一閃を放つことになるのだが、
銀時はそれを受け止めるのではなく―――受け流す。

速さと鋭さを持ったそれらすべてを、逆らわず、風を受ける柳のように。


―――畜生。

―――真剣まで折る馬鹿力のくせして、器用なことしやがる。

無性に腹が立った。

―――この力の差は何だ?


刀を振るう。


―――局長の名誉の為?
組の体面の為?


確かにそれもある。でも、本当は理由なんてない。


そう、ただ、


その強いひかりを、


感じたかった。



土方はひっそりと、笑った。



しゅ、と、銀時の頬に赤い筋が走った。
すぐに距離をとり、木刀を構え直す。

―――さすが「鬼の副長」さんだね。

そのスピードは衰えるどころか増し、剣筋はさらに鋭くなっていく。
軽い気持ちで受けたことを、少しだけ後悔した。

―――あんまりやってると、

―――戻っちゃう、なぁ――

モノを考える余裕が無くなって。
守る、とか、許せない、とか、ごちゃごちゃした感情は消えていく。

―――「戦いたい」

残るのはその思いだけだった。


「鬼」の血と。
「夜叉」の血が。

呼応し。

ぶつかり合う。



「よう―――『白夜叉』」

ぴくり、と反応する。視線を向けた先には、不敵に笑う顔があった。


「―――楽しいかよ?」


楽しそうに。

この上なく楽しそうに。

そう、言うから。


「…お前も好きだね―――『鬼の副長』さん」


余計に楽しくなった、じゃないか。





がっ、

がきん。

ごっ、

ごがっ。

ひゅ、

がすっ。


何度も、

何度も何度も、

刀を交える。


それは勝負であり、

会話であり、


人間にとっての搏動に近いものである。


刀を振るう。
受ける。
引く。
向かう。
逸らす。
凪ぐ。
返す。


呼吸のように。
瞬きのように。

ただ自然に、ひたすらに。



「…っらァッ!」

「…――っ!」



それが、


ただひとつの、



つながることができる方法だと信じて。



じわじわと、

お互いを、侵食して。

きっといつか、

すっかり入れ替わってしまって、

それでも、満足することなく。


きっとまた、刀を交わすんだろう。


言葉などいらない。

理由などいらない。



ただそこに、


刀と、力があるのだから。




終





前サイト9500打、飛沫様へ。「バイオレンス銀土」でした。




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