さあ、パーティーを始めよう。


Trick or Treat!


「…で、何なんだ」

「祭りでさァ」
「お祭りです!」
沖田と山崎が同時に声を上げる。

土方は無言であたりを見回した。

屯所内はすでにきらびやかな装飾で溢れ、甘い香りが漂っている。

――…この浮かれようは一体何だ。

「企画は俺でさァ」
「てめえか…」
苦虫を噛み潰したような顔で、狐のお面を頭につけた沖田を見ると、沖田は悪戯っぽくにやりと笑った。
「はろういんっつーお祭りらしいですぜ。まァ盆みてェなもんでさァ」
「…で、こりゃ何だ」
土方はそこらじゅうに転がる、中身を刳り貫いてあるカボチャを一つ拾い上げた。
傍らでは山崎が懸命にカボチャの「顔」を彫っている。
笑いながら、何か企んでいるような顔。
「はろういんには必要不可欠なもんなんでさ」
そう言って笑う沖田にそっくりだ。
「…中身は」
「晩飯を楽しみにしててくだせェ」
「…」
嫌な予感がした。


「うーん…あとは何だろねィ。なんっか忘れてるような」
「…明日にゃ片付けるんだろうな」
「固ェこと言わずに。一週間ぐれェ騒ぎましょうや」
「騒ぎすぎだから!今日だけだ今日だけ!」
「ちぇーつまんねェの」
沖田は口を尖らせ、くるりとそっぽを向いた。


土方はわいわいと飾り付けをする隊士達を眺めていたが、どうにも居心地の悪さを感じていた。
「…見回り行ってくる」
誰に言うでもなく、なるべく聞こえないように小さく呟くと、
「あ、副長!俺も行きますよ」
それを耳聡く聞き付けたのは山崎だった。
「…いや、いい」
「ダメです。何かあったらどうするんですか!」
「何かって」
「悪い虫がつくってことでさァ。なァ山崎?」
いつのまにか、沖田がにやにや笑いながら立っていた。
「え、いや、あの俺は」
「…俺を何だと思ってんだてめえらは」
「いっつも見回りに出ては旦那に捕まって結局そのまま帰ってこないのは誰ですかィ」
途端、土方の顔がかっと赤く染まった。
「な、に言ってやがる!あ、あれはだなっ」
「万人が納得するような理由が堂々と言えるなら聞かしてもらいやすよ?」
「…う」

「…(言葉に詰まったらおしまいですよ副長…)」

山崎は目を細めて遠くを眺めていた。



ざ、ざ、ざ、ざ。
町の賑わいの中に、規則的な足音が混じる。
楽しく談笑するような雰囲気ではないが、すこし侘しい、と山崎は思った。
「…副長、パーティーとか、嫌いなんですか?」
だから、ぽろっと言葉が零れてしまった。
「…あ?」
ぎ、と睨まれ(本人は多分普通のつもりだ)、山崎は慌てて言葉を紡ぐ。
「や、あの、その、…あんまり、楽しそうでは、…なかったので」
「…」
土方は黙り込んでしまった。聞いちゃいけなかったかな、と思い、何とか言い繕うとしたとき。

「…浮かれてる俺が見てェか?」

ぼそりと、呟いた。

――浮かれてる副長…

「想像すんな」
「はっ!はいっ!すっすいませんっ!」

――…一瞬想像してしまった。

慌てふためく山崎を見て、土方は眼光を和らげ、苦笑した。

「…似合わねェ、だろ」
「え…」

――その顔が、

――何だか、どこか、淋しそうな。

「副…」
何か言おうと山崎が口を開いた、そのとき。

「――あれぇ」

気の抜けた声が響いた。

「…あ」
「土方じゃん!」

銀の髪を揺らしながら駆け寄ってくるその姿は、何となく犬のような印象で。

だから。

土方の顔が和らいだように感じたのはきっとそのせいだ。そう、山崎は思うことにした。

「見回りお疲れさま。今日はいつ終われんの?」
「…いや、今日は…」
「いやな、ちょっと聞けよ。何でも「はろいん」て祭りがあるらしくってよォ」
沖田のにやけた顔が頭に浮かんだ。
「…あァ」
「知ってる?」
知ってるも何も。今まさに屯所は、沖田曰く「はろういん」の真っ最中なのである。土方は笑みを零した。
「…一応な」
「そ?まぁそんでさ、神楽がパーティーパーティー煩ェの。
しょーがねェからケーキでも作ってやろうかと思ってさァ」
だからさ、と銀時は続ける。

「――土方のご飯が食べたいなァ、と」

その言葉に、山崎は眉を寄せた。

駄目?と顔を覗き込まれ、土方は返事に窮している。

――…それは駄目ですよ、副長。

それでも、多分、すっぱりとは断れないのだろう。このままでは押し切られかねない。
おそらくいつも以上に土方を弄ろうと待ち遠しく思っているであろう沖田が恐いので、
それだけは避けたいと思い山崎は口を開いた。

「――だ、旦那。それならウチの屯所に来ませんか?」

土方は、驚いたように山崎を見た。





パンプキンケーキ。
カボチャサラダ。
南瓜の煮付け。
かぼちゃの天麩羅。
etc、etc。


食卓は見事なオレンジに染まっていた。

「…おいおい、こりゃ何のつもりですかコノヤロー。嫌がらせか何かですか」
「文句言うなら帰ってくれても全然まったく構いやせんぜィ旦那?」
沖田は狐のお面を頭につけたまま、カボチャまみれの食卓についている。
「銀ちゃん!私帰らないアルよ!」
神楽はすでに料理に手を付けている。
「…って言ってるし、俺もタダ飯食いに来たんだし―――」
銀時が食卓に視線をやると、その「タダ飯」はどんどん神楽の腹に吸い込まれていっている。
――しかし、猛スピードで無くなっていく料理を黙って見守る隊士達ではない。

どがしゃーん。ぱりーん。ばきばきー。

瞬く間に食卓は戦場へと変わってしまった。

がっ

最後の天麩羅に刺した箸と箸のぶつかる音がした。
沖田と神楽は互いに箸を引かず、きっ、と横目で睨み合う。

「…その箸、どかすネ」
「お断りしまさァ」

ピシャーン。

目と目の間に電流が走る。

…乱闘開始の合図だった。


ぐわしゃーん。ずどーん。べきべきー。


どたどたどたどたどた――
すぱぁーん。

「おいコラァ!屯所壊してんじゃねェェェ!!」
周りの隊士たちも混ざったり囃したてたり収拾がつかなくなったころに、
襖が勢い良く開き、その怒声は響き渡った。

声の主は、出張だった近藤を迎えに行っていた土方である。

「おっ、賑わってるなァ」
土方の後ろから近藤が顔を出す。それを見て銀時は僅かに眉を寄せた。

―――居ないと思ったら。

「飯残ってねェじゃねーか!近藤さんの分残しとけって言っただろーが!」
土方は不穏な空気を纏い始めた銀時には気付かずにいた。

「食ったのは七割方こいつですぜィ」
「違うネ!八割方コイツアル!」
「アホか!」
土方はすぱぱん、と互いを指差している二人の頭を殴った。
「まぁまぁトシ」
構わねェよみんな楽しんでんだから、と近藤は笑い、土方は不満げに何か答えている。
それを見た銀時の機嫌はますます下降していった。

それを敏感に察知した人間が、一人。

「旦那ァ」

いつのまにか抜け出してきた沖田だった。

「何」
「ご機嫌斜めですねィ」
「…ほっといて」

「…良いコト教えてあげやしょうか」

沖田はにや、と笑った。





ようやく落ち着いて座った土方の後ろに、

ゆっくりと近づく影が、ひとつ。

それに気付いた隊士達は、冷や汗をかきながら目を逸らす。
――言ったら、どんな目にあうかわからない。


影と土方の距離が、0に近づいたとき――


「…土方」

突然耳元に響いた低い声に、土方は鳥肌を立てて停止し、言葉を失った。

声は、続ける。



「…Trick or Treat?」



その言葉の意味を沖田から聞いた銀時は、この上なく楽しそうにそう囁いた。



終





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