走る、走る。走れ、走れ。
ランナウェイ
―――良い夢を見た。
その日の土方の寝起きはそこそこ良かった。
―――何事も無く平和な一日を過ごす夢。
もしや正夢ではないか、と。
そんなことを思いながら立ち上がり、軽く伸びをした後、庭へつながる障子を開けようとした。
そして、止まった。
思う。
―――ああ、逆夢か。
中庭から、爆音が聞こえてくる。
何故かありありと情景が浮かんできた。
バズーカを構える沖田。
木刀を構える銀時。
ラケットを持ったまま地に伏す山崎。
その他隊士の死屍累々。
「旦那ァ。幾らなんでも真選組屯所に忍び込むたァ良い度胸ですねィ」
ズガーン、とバズーカの音が響く。
「はっ、朝になるまで侵入者に気付かないようじゃ、先が思いやられるなァ」
どうやら銀時は上手く避けているようだ。
沖田はチッと舌打ちをした。
―――クソアホ天パが…!
昨夜突然に押し掛けてきて、一晩を過ごした男に毒づく。
土方は素早く着流しを纏い、中庭と反対にある窓に足をかけた。
関わるものか。
心の中で呟き、裸足のまま外へと飛び出した。
(…草履ぐれェは持ってくりゃ良かったな…)
さくさくと、川べりの芝生を歩く。流石にこんな格好で道は歩けない。
そろそろ、自分が居ない事に気が付く頃だろうか。
「…どうやって帰るか…」
どうにもいかず、ごろん、と芝生に寝転がる。
ごそ、と懐を探るが、目当てのものはない。
着の身着のままで飛び出したから、当たり前ではあるが。
「…クソ」
苛々する。
寝ちまおう。
そう思って、目を閉じた。
そのとき、ふ、と影が差した。
「…よう兄ちゃん。吸うか?」
「…あァ?」
目を開けた、そこには。
次の瞬間、土方はざざ、と距離をとった。
その手は刀にかけられている。
「…高杉…ッ!!」
その視線の先では、高杉が煙管を差し出したままくつくつと笑っている。
土方はギリ、とそれを睨んだ。
「殺気立ってんなァ、オイ。ちょっと落ち着けや」
「っるせェぞコラ!馴れ馴れしく話し掛けてんじゃねェよ!」
「オメーもうるせェよ。俺ァ今日休みなんだよ。オメーも休みなんだろ?隊服着てねェし」
「…しょっ引くぞ」
「これやるから見逃せよ」
高杉は笑いながら煙管を揺らす。
「…ふざけやがって」
こいつがあの高杉晋助か。
土方はバッと煙管を奪い、口をつけた。
紫煙が二つ、昇る。
「で?何してんだよこんなとこで」
「関係無ェ」
「ハッ、そりゃそうだ」
しばらく無言で過ごした。
土方の隣に寝転がっていた高杉は、ふと体を起こした。
「…さて、俺ァそろそろ逃げるとするか」
「逃がすと思ってんのかテメー」
高杉はこの上なく楽しそうに笑った。
「…オメーこそ逃げられんのか?」
土方は一瞬、
怯んだ。
その一瞬で、高杉は視界から消えた。
「…チッ…!」
土方は舌を打ち、煙管を投げ捨てた。
「土方さーん、どこですかーィ」
肩にバズーカ乗せて人を探すな総悟。
身の危険を感じながら、土方は素早くそこを離れた。
「副長ー、裸足でしょー、草履持ってきましたよー」
テメーの腹は見えてるぞ山崎。
土方は山崎をゴッ、と後ろから殴った。
痛みにうめく山崎を尻目に、草履を奪い取り、全速力で駆け出した。
「お妙さァァん!!お仕事お疲れ様でェェす!!」
…近藤さん…またあの女の店行ってたのか……あの金、もう経費じゃおとさねーぞ。
…――…まァ…後一回くれェなら許してやってもいいけどよ…
そんなことを考えながら、殴り飛ばされる近藤を背にした。
「…どいつもこいつも…!!」
ガシャン、と煙草の自販機から煙草を取り出す。
一本口に咥えてから、ライターも無いことに気が付いた。
その辺に落ちてないかと辺りを見回したその時、
ずい、とライターの火が差し出された。
反射的に煙草を吸う。
そして、違和感。
―――何か、腰、掴まれてるんですけど。
「つっかまぁえた」
死刑宣告にも似た響き。
「ぎ、…んとき」
ポロ、と煙草が落ちる。
銀時はあーあ勿体ない、などと言いながら、その火を踏み消した。
そして、土方を見る。
「…ちょーっとさぁ、酷いんじゃないの」
「…な、にが」
「恋人置いて逃げるか、フツー」
土方は口をぱくぱくさせた。
―――こいびと、恋人っつったのかこいつは。
「っと、鳥肌立ったぞテメェ!!」
「うっわ、これだよ。ったく素直じゃねーな。昨日はあんなにヒィヒィ言」
「たたっ斬るぞコラァァァァァ!!!!」
「できるんならどーぞ?」
最早土方はがっちりと捕まってしまっている。
ぎっと睨み上げる土方を見て、銀時はにっ、と笑った。
「じゃあまぁ、今日も励みますか」
銀の髪が日の光を受けている。
嗚呼、―――そう言えば今日も快晴。
終
前サイト3500打、泉様へ。「銀土前提土方総受」でした。
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