何で、こんなに痛い?


続・感情論


あいつは確かに言った。
俺を好きだと馬鹿みたいに叫んだ。
そして強く抱き締めた。
熱が移る程に強く。
そして、もう一度言った。

好きだ、と言った。

確かに言った。



筈なのに。





「…あの、失礼ですが…」

―――きみたちはだれですか。


余りにも非日常的なその言葉に、
ぴしり、と空気が凍り付いた。


「…何言ってんですかィ、万事屋の旦那?」
にやにやと笑みを浮かべながら銀時を呼び止めた沖田も、表情を一変させた。

その様子を見て、銀時は困ったように眉を下げた。

「お知り合いでしたか?…申し訳ない…僕は今…記憶喪失らしいのです」


―――誰だ、こいつは。


「はァ…記憶喪失、ですかィ。旦那もまたけったいなことになってやすねェ」

「ええ…いろいろな方が僕の記憶を戻そうと頑張ってくれていたのですが一向に思い出せなくて…。
聞けば、僕は人様に迷惑ばかりかけていたらしい…。
だから、これからは生まれ変わったつもりで生きて行こう、と」

―――こんな奴、知らない。

「きみも…知り合い、ですか?ええと…名前は…?」

―――知らない。

「…土方さん?どうしやした?」

「土方さん、ですか?」

―――なんで。

唇が震える。
足から力が抜けていく。
立てなくなる。


何で。
お前言ったじゃねえか。
あんなに。
何で、
なんで。


―――『多串くん』


「土方、さん?」


何で、こんなに。


「…んで、」

ああ、馬鹿らしい。

こいつにとって、忘れちまえる程どうでもいいことだったってだけだろ?

「なん、でっ…」

全部嘘で、やっぱりからかわれてただけってことだろ?

「っ、」

だから痛くねえよ。
全然痛くねえ。


「…何で、忘れてんだよ…っ」


全部、心と裏腹な台詞。


「…ひ、じ…」

銀時は、僅かにうろたえた。

―――何で、

覚えて、ないのに、

きみの、涙が、


「―――ッ、馬鹿野郎っ…」


何で、こんなに。


「ちょっと、土方さん!?」
走り去った土方を、沖田が追う。

あとには銀時が立ち尽くすだけだった。


―――また、

一人、傷つけてしまった。


ただ呆然と。


その涙だけが頭から離れなかった。





「…頭、痛ェ」

そう言って土方は机に突っ伏した。

自室にこもって食事も摂らず仕事をし続けてはや二日。
空いた肺に容赦無く煙を送り続けたせいで、体調は最悪だった。

買い置きのカートンも残り二箱。


馬鹿みたいだ。

何でこんなことになってんだよ。

もう何も関係無くなっただけで。

それ以外の何が変わったってんだ。


――ぱた。

ぱた、ぱた。


あァ、おかしい。

目から鼻水が出てきやがる。


―――多串くん。

―――好きだよ、ホントに。

―――大好き。


何思い出してんだ。
ありゃ嘘だ、全部。
第一、人の名前もちゃんと呼ばねえ野郎だ。
全部いい加減で。
全部偽り。
全部どうでもいい。

もう、

「…なんで…」

全部、忘れてしまいたい、のに。

「…畜生っ…」


あの眼も。
あの声も。
あの腕も。
あの熱も。



…馬鹿みたいだ。

土方は自嘲するように笑い、

震える手で煙草に火を付けた。



忘れて、しまえばいい。



けれど、そんなことはできないと、わかっていた。





―――相変わらず騒ぎが好きな野郎だ。

近藤と山崎と共に盾にされている銀時を見て、土方はそう思った。



―――あーあー、馬鹿じゃねえの。
子供に庇われてよ。

しょうがねえ奴だ。
しょーもねえ野郎だよ、テメェは。
あー、あ。
…俺も馬鹿だよ。


土方はざ、と銀時の前に歩み出た。


―――何で。
あんな、泣かせて、
傷付けてしまった、のに。

なんでここに。


眩しい程の黒に身を包んだきみ。


「…不本意だが、一般市民は護らなきゃならんのでね」


―――きみのその言葉が、

照れかくしなのを、僕は知っている。

ああ、




「…素直じゃないね、多串くんは」




そこが可愛いんだけどね。



「―――すんませーん、工場長。今日で仕事辞めさせてもらいまーす」



木刀を携え駆けるその姿。


ああ、涙が出てしまいそうだ。


その感情を必死に抑えこんで、
土方はその背に続いて走った。



終





これも友人へ。原作沿いの話って苦手だ…




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