あんな顔で、
あんな眼で、
あんな、
言葉を。
感情論
―――どうにも引っかかっていたのだ。
大体、命懸けで爆弾処理をする奴が居るか。
逃げるだろ。普通。
どんな胆の座ったヤローかと思えば、取調べでは始終へらへらしてやがった。
わけが分からなかった。
今までそんな人種を見たことが無かった。
…刀を交えれば、何か分かると思った。
卑怯な手を使ったとは言え、曲がりなりにも真選組局長―――近藤さんを負かす程の。
その力を見たかった。
勝てない、と分かった。
決して自分を曲げることの無いこの男には勝てないと。
そして、同時に、
認めたくないけれど、
確かに、惹かれていたのかもしれない。
それが間違いだった。
「おう、トシ。怪我は無いか」
屋根の一戦の後、屯所に帰ってきた土方を迎えたのは近藤だった。
「近藤さん…見てたのか。…ワリ、負けちまった」
「いや、気にするな。奴は一筋縄じゃ勝てんさ。俺も負けちまったしなぁ」
そう言って近藤は豪快に笑った。
「…そりゃ、野郎が卑怯な手ェ使ったからだろ?」
「まっ、そうなんだがな!あれはお妙さんを思ってのことだろうよ」
「…」
土方は言葉をなくした。
「俺はお妙さんが奴とあんな事もこんな事もそんな事もしてようが、諦めんぞー!」
…ああ、
そうだった。
元々、女の取り合いだったんだっけか。
卑怯な手まで使うぐらい、
守りてえ女が居るんだった。
…何なんだよ、畜生。
―――心臓が痛ェ。
土方はふらふらと部屋に戻っていった。
ずーん。
まさに、その効果音は今の万事屋…もとい、銀時の状態にぴったりの効果音だった。
ソファに丸まって横になり、背もたれの方にのの字を書いている。
おまけに何やらぶつぶつと呟いていて、気持ち悪いことこの上ない。
新八は、誰かに何とかしてもらいたかった。
しかし神楽の姿はすでに無く(居ても何とかなる可能性は極めて低いが)、
他にこの状況を打開してくれる人がいるとも思えない。
新八は溜息をついた。
…嫌な予感がするけど。
恐る恐る口を開く。
「…あの、銀さん」
「………んー?」
良かった。返事は出来るようだ。
新八はすこし安堵して、また口を開く。
「何か、あったんですか?」
次の瞬間、
銀時はがばり、と起き上がった。
「うおわっ」
とっさに新八は一歩引いた。
が、銀時はがっちりと新八の肩を掴んでがくんがくんと揺さぶった。
「そう!そーなんだよ聞いてくれよ〜〜っ!」
脳を程よくシェイクされ、薄れゆく意識の中で新八は、
聞かなきゃ良かった、と本気で後悔していた。
時は遡り数日前。
銀時はありったけの勇気を出して言った。
「好きです、もうホントすっげぇ好き。付き合ってくださいっていうかヤらせてください、今すぐ」
何を。
とは流石に言えないが。
銀時は相手の反応をじっと待った。
1、斬られる。
2、殺される。
3、斬り殺される。
さあどれだ。
「…」
しかし、目の前の相手が刀を抜く気配はなく、俯いたまま動かない。
アレ?
銀時は大いに狼狽した。
こんな反応は予測していない。
「…あの、土方?」
恐る恐るその名前を呼ぶ。
「…んな」
「…へ?」
「ッざけんじゃねえ馬鹿野郎ッ!!二度と俺にそのツラ見せんなッ!!死ね!!」
土方はそう叫んで走り去ったのだ。
…後には銀時が立ち尽くすだけだった。
そして今に至る。
「信じられる!?死ねっつったんだよ!斬るでも殺すでもなくて死ねだよ!?」
「は、はぁ…」
胸倉を掴まれがくんがくんと揺さぶられる新八は息も絶え絶えだ。
「俺超マジで眼ェキラッキラにして言ったんだよ!?なのにふざけんなだよ!?」
「…はぁ…」
もはやそれしか言えない。ていうか言いたくない。
ぐったりとした新八をあっさりと離し、銀時はソファに沈み込んだ。
「…てかさぁ…なんつーかさ…。怒ってるわけじゃなかったような気がしててさ…」
「…はぁ?」
「うん、なんつーかな、…ちょっと泣きそうだったっていうか…」
眼ェ大丈夫ですかアンタ。
新八はその言葉を飲み込んだ。
…この人、本気だ。
「…もっ、かい会ってみたほうが、いいんじゃ、…ないですか?」
しどろもどろになりながらも言うと。
「えー駄目駄目…。二度とツラ見せるなって言われちゃったし…」
ぶん殴るぞこのマダオ。
新八は深い溜息をついた。
「じゃ、…このままでいいんですか」
「………それは、ヤダ」
僕は知りませんよ。新八はそう言った。
土方は、息を切らしながら目の前に飛び込んできた銀時を、冷めた眼で見つめていた。
「…二度とツラ見せんなって言った筈だがな」
銀時はじっと土方を見つめる。
「だって、好きなんだよ」
かっ、と。
土方の顔に赤みがさした。
「…土方?」
「っるせェ、フザけやがって、いい加減に、しやがれ」
「ふざけてなんかないって」
「黙れ、失せろッ…」
とりつくしまもない。凶暴な感情が湧き上がる。
駄目だ、と思うのに。
「…っ話ぐらい聞けよ!!」
気がつけば、叫んでいた。
土方の目が見開かれる。
銀時はなおも叫ぶ。
「滅茶苦茶マジで好きだっつってんだよ!!」
しぃん、と静けさが走る。
「…んで…」
土方は呟く。
「…土方?」
「なんで、テメェはっ…」
泣きそう?
「…っい、居るんだろうが、テメェには!近藤さんと取り合った女が!」
「…え?」
「卑怯な真似してまで守りてェ女がっ!」
「…へ…?」
「いっ…いま、すぐ…っ、今すぐ失せろ!!」
「…ひじ、かた…?」
「俺の前から、消え失せろっ…」
消え入りそうな声を出して、土方は俯いた。
銀時はうろたえた。
本気でうろたえていた。
どう考えても自分に都合の良いことしか浮かばないのだ。
「…土方」
「…」
「それって、さ」
「…ん、だよ」
ああ、抱きしめたい。
その感情に逆らうすべはなかった。
終
友人へ。これも古いなあ…
>back