11
「や」
軽く手をあげて、声をかけてきた。
視線でそれに答え、しかしすぐに逸らして煙を吐く。
「お仕事お疲れさん」
にっこりと笑う。どう答えていいか分からず、結局煙草を深く吸ってしまう。
答えがないのを訝しむ様子はない。
「寒ィよな、今日」
「…そうだな」
そういえばどうも指が動かしづらかった。
冷えていたのかと今更気付く。
無意識に手を見た。
すぐにその手を取られた。
「冷てェな、お前」
すぐに引こうとした。
けれど、
その手が、思ったより暖かくて。
放すのが、少し惜しくなった。
12
※高校同級生パラレル
合縁奇縁一蓮托生一寸先は闇の中。
視界の中に、何か目障りな銀色(本人談。どう見ても白)がよく映るようになった。
土方はぼんやりしながら青い空に向かって煙を吐き出した。
雲のように白くただよい、風に吹かれてすぐに消えていくそれをただ見つめる。
「ちょっと。シカトですか」
片眉を上げて声の主を見る。言葉とは裏腹に、その顔は至極にやけていてどうにも腹が立つ。
視線を空へと戻して、また煙を吐いた。
梅雨はもう終わってしまった。
鮮やかな青に染まってしまった空がどこか憎らしい。
「なあ」
耳障りな声がする。
鼓膜にはりついて離れない。
「どうしたい?」
無価値で無意味で無遠慮な問いを、この男はいつもしてくる。
土方はいつも通りに無言を返した。
「どこに行きたい?」
煙草が短くなっていく。
空は青のままだ。
この世界がまだ、モノクロだったなら。
「どこでも連れてってやるよ」
無責任で身勝手で根拠の無い言葉を、この男はいつもたやすく口にする。
だから土方は目を伏せて言う。
「…ここじゃねェところ」
銀時は少しだけ目を見開いて、そして、笑う。
土方はそれを見ることなく、深く深く煙を吸い込む。
「―――飛び降りてみよっか?」
一緒に、と。
なんでもないことのように。なんでもないような顔で。
それがどこか悔しくて、土方は無言を返した。
それもいいかもしれない、とどこかで思っていたことには気付かない振りをして。
色づき始めた世界に、今はまだ背を向けて。
「―――あ、今度遊びに行こうな」
「嫌だ」
今はまだ。
13
※死にネタ
土方は覚醒した。
―――夢を、見ていた気がする。
内容は思い出せない。ただ騒がしくて、きらきらと光るぎんいろだけが脳裏に焼き付いている。
うっとうしくて、どこか幸せな。
―――ただの夢だ。
思いながら目の前に焦点を合わせる。
赤と褐色のせかい。
血と煙のにおい。
くだらない些細なことで世界はいつもたやすく壊れる。
ここはもう焼け野原。
かつて華々しさを誇った江戸は、炎と血と煙の中。
ああくだらないくだらない。
俺たちが矜持を犠牲にしてまで守ってきたのはこんな。
こんなにも脆く。
土方はゆっくりと立ち上がる。
重力に従い、どくどくと血が流れる。
ああくだらないくだらない。
こんなせかいで俺は何を守ろうとしている。
放り出してあった愛刀を拾い上げる。
もう一度あいたいなんて。
今更のように、思った。
14
※死にネタ
土方は未だ目覚めない。
その顔は驚くほど白く、体には幾重にも白い包帯が巻かれている。
今は雪のように白い彼。
傷の跡だけが痛々しく赤い。
「…ばーか」
傷に障らぬよう、そっとその顔を撫でる。
色を無くしてしまった唇に、指を這わせる。
なんで、あんなことした?
「…死にたかったのかよ」
―――ああ、でも、そうかもしれない。
ここは、お前達が、守ってきたんだもんな。
「…なあ」
そこに、俺はいた?
どおん、と、爆発音。
銀時は、窓の外を見る。
「…もう、来ちゃったか」
視線を戻し、さら、と土方の髪を梳く。
「…しょーがねーから、守ってやんよ」
そう呟いて外へ出た。
もう一度あえれば、いいなァ。
無理だとわかっていても、強く思った。
15
視界が真っ赤に染まって、そこからブツリと思考は断たれた。
ちゃぷん。
「…?」
―――あたたかい?
土方はゆっくりと目を開けた。
「…は…?」
そこは風呂だった。
ざー、とシャワーがかけられている。
「…な、」
「おはよ」
かけているのは腰にタオルを巻いた銀髪の男だった。
「…なに、してんだ」
「血塗れだったからさ」
きゅ、とコックをひねって湯を止める。
浴槽の湯は薄いピンクに染まっている。
「……なんで」
「お仕事ごくろーさん」
狭い風呂だけど勘弁な、と言って銀時は笑った。
16
は、と湿った息が漏れた。
際限無く与えられる快楽の波に流されそうになるのを、
緩く頭を振り、唇を噛み締めて辛うじて耐える。
快楽に溺れた声を上げるくらいなら死んだほうがマシだ。
「…血、」
でてるよ、と掠れた声が耳に届く。煩いそんなもの構ってられるか。命がかかってんだ。
無視したらべろりと唇を舐められた。
舌の赤に血の赤が乗った生々しい色が目に入る。
「血の味って嫌い」
じゃあ舐めんな、死ね。心の中で叫んで更に唇を噛む。
「噛むなっつの」
言いながら指を突っ込んできた。
馬鹿が、噛むもんが変わっただけだ。
「いてててて、ちょ、いたいいたい」
かなり痛そうなのに指を抜かないは何でだ?
17
「なー、好きなんだけど」
「おー、俺も」
「じゃーちゅーしていい?」
「は?すれば」
「なあなあ俺がやっていい?」
「…あー。ジャンケンで」
「おー、いいね」
「どーすっかあ」
「さー」
「なんだよー、ちょっとは考えろよー」
「…このままでいいんじゃねえの」
「愛してるよ」
「…」
「なあなあ」
「…あんだよ」
「俺お前が真っ赤になったの初めて見たかも」
「…あっそ」
18
むぎゅう。
突然後ろから抱きつかれ、銀時はどさりと荷物を取り落とした。
あまりのことに声も出ない。
(えーと、えーと、えーと、なに、なんだっけ、
確かそう、買い物行って、偶然会って、えーと、うちに来ればって言って、
ぶーぶー言いながらついてきて、で、入ったら、今まさにこの状況で)
「…あのう」
ぎゅう。
腕の力が強くなった。
(…喋るなってことかな)
さぁどうしよう。どうしようかな。
抱き締め返してあげたいけど、後ろからなのでちょっと無理だ。
19
「ちゃんと家の手伝いとかしてる?」
「…は?」
「ご飯の準備とかさ」
「…なんで」
「料理作れるとお得だよ、自炊できるし」
「あー…そゆこと。何、アンタできんの」
「できないから土方に言ってるんじゃん」
「得なのはテメーかよ!」
20
見上げた空は青く澄んでいる。ぼんやりと飛び込んでみたい、なんて思うくらい。
まっさらな空に白く綺麗な毒の煙を吐いてやっても、雲なんかできるはずなくて。
とけていく。
とけていく。
とけて、しまいたい。
「顔に灰落ちるよ」
声をかけられて、煙草の灰が長くなっていることに気付く。
起き上がって携帯灰皿にとんとんと灰を落とし、一度深く吸ってからぐりっと押しつける。
細く薄い煙はすぐに消えてしまった。
また寝そべる。
「なんで空見てんの?」
何もないじゃん、と笑う。
雲が無い、と答える。
「ないね」
「とけれる気がする」
顔を覗き込んでくる―――銀色。
「だめだよ、とけちゃ」
雲みたいだ、と思った。
終
ごっちゃごちゃですいません
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