1

土方は、言葉を失った。

いつも通り、締まりのない顔でにやにやと笑いながら現れたのは、
確かに、己がよく知る「坂田銀時」であったはずなのに。
あれは、誰だ。
今、異様な刀を持つ男と対峙している、一振りの刀を持った銀の髪の男は、
誰だ。

あんな男は知らない。
あんな目をした男を、俺は知らない。
あんな、

戦うために、
人を斬るために生きているような、
あんな男は、知らない。

ぞくり、と全身に鳥肌が立った。

畏れと、悦びで。


――それが、お前の「本当の姿」か。


「――白夜叉…」

土方の、畏怖と歓喜に満ちた呟きを聞いた者は、その場には誰一人居なかった。



ぐしゃり。

鈍い音を立てて、銀時が相手の腕に刀を突き立てた。
あれならば、腕の筋肉は断ち切られ、もう使い物にはならないだろう。

終わった、か。

ほう、と詰めていた息を吐く自分がいることに気付き、ぎり、と唇を噛み締める。

「…っ、」


矢張り、
奴には、届かないのか。
この差は、埋まらないのか。


悔しくて、堪らなかった。


土方が、拳を握り締め下を向いた、

刹那。

「――ッ!!」

ぎちぎちぎち、と嫌な音がした。

土方は顔を上げ、

「――、な…!!」

絶句した。


銀時が、
もはや「刀」とは言えないその代物に、
絡めとられていた。

…理解の範疇を越えている。

何だ、あれは。

それはバリバリ、と音を立て船の中へと落ちていく。
土方は一度小さく震え、それを追った。


まさに「吸収」されているような銀時の姿。

「ぎ…!」

どくり、と体の中から音がする。


違う、あれは――
「銀時」では、なかった筈だ。


助けるのか?

「白夜叉」を?


「―――…」


助けたとしても、
その後は、どうなる?

…見えるのは、戦場。

ぞくぞくと、背中を走るものがある。

―――ああ、
「鬼」の血が、疼く。


カチリ、と、愛刀の柄に手をかける。

その目には、

――歓喜の色が、満ち溢れていた。


お前を殺すのは、


俺だ。


土方は駆け出した。


2


「愛なんかなくていいよ」

「死んじまえ」


抱かれてやる気なんてこれっぽっちもなかった。

いらないということは、自分から捧げる気もないということだ。

…愛が欲しかったわけでもない。

なくていい、と決め付けるその姿勢に苛立った。

結局、誰でも良いんだろうが。



痛む胸と流れる涙には気付かない振りをしてひとり歩いた。


3


「さよなら、…だな」

なに、その顔。

「そんなに、嫌いでもなかったよ、テメーのことは」

なに言ってんの?

「…さよならだ」

意味わかんない。

さよならって、なに。

「多分俺は、明日にはもういない」

なに?

「だから、」

スローモーションの映像を、繰り返すような、

「…さよなら」


そんな笑顔は見たくなかった。



溺れるような恋だった。


4


「碌でなし、馬鹿、死んじまえ」

うん。

「お前なんか、」

うん。

「お前なんか、」

「きらい?」


「…」


泣きそうな顔をするのは反則だ。


「ごめんね、大好き」


「…馬鹿野郎」



もう少し好きでいさせて。


5


最後に愛は勝つらしいから、許して。


純粋感情暴走警報



すごい。

初めてだよこんなこと思ったの。


「すっげーお前ボッコボコにしたいんですけど」

殴って倒して蹴って乗って殴って殴ってリピート。

「病院行け」

そんで帰ってくるな、と虫を見るような眼で言われた。



「ああ、普通よ普通、むしろ今までアナタ気付いてなかったの?
アナタがSで、私がM。運命の出会いだったわけなんだから」

私なら幾らでも殴っていいのよ、ねえ。

「でも今のとこ殴りたいのあいつだからさ」

ありがと、俺普通なんだよね。そう言ってそそくさと去る。


―――じゃあ、おかしいのはあいつだろうか?



「試しにいっかいでいいや、殴らせて」

言ったら逆に(しかもグーで)殴られた。

意外と容赦無い。


6


逃げなきゃ、

何も、聞こえないふりをして。

帰らなきゃ、

でもどこに?

耳を塞いで、

目を閉じたまま、

上手く歩ける筈も、ないのに、

どこに、行けると?


「―――みつけた」


腕に、

指が、絡んで。


「どこにも、いかないで」


爪が、食い込んで。

ことばが、こころを、縛り付けて。


安堵してしまう自分が、確かに、いた。


7


―――どうしてだ?

考えても考えてもわからない。

―――何が、あった。

思い出せない。


「離れないでどこにも行かないでここにいてずっとここに」


ぎりぎりと爪が食い込んで、
痛い、と呟く。

その目は恐怖に見開かれ、その手にはさらに力がこもる。

「それで放したらどうすんの、ねえどうすんのどっか行くの俺を置いてくの」

「…そんな、」

「そうなんだろなあ絶対そうだ、だって逃げたもんな、お前俺から逃げたんだ」

放さない放さないと繰り返す。


―――行かないのに。

―――だってどこにも行けないのだから。


それは言葉になることはなく、

虚ろな目は空を仰いだ。


8


「これ、なに?」
「刻み煙草入れ」
「…あ、ホントだ。何、煙管使うの?」
「たまにな」



「温泉…」
「…は?」
「温泉に行きたい!」
「何だいきなり」
「湯煙殺人事件だよ。犯人は美人若女将」
「頭でも打ったか」
「…二人で遊びに行きたいだけなんですが!」



「…あの、さっき、瀕死の重傷を負ったとか今夜が峠とか聞いたんですが」
「…総悟だ。一月に一回はデマを流す」
「どんな教育してんだ!」



「眠いんです、ホント今日は眠いんですさようなら」
「そんなこと言わずにいっかいだけ!」
「明日の日の目を拝めなくしますホント勘弁」


9


すき、と言うと、
酷く苦しそうな顔をする。

それが悲しいので離れようとすると、
寂しそうな顔をする。

「なんで?」

聞いたら、
その顔は真っ赤になった。

好きすぎて苦しい。
離れると寂しい。


俺は、もう少しこの我儘な子に付き合ってあげたいと思った。


10


いらないいらない、


きみしかいらない。


いらないいらない、


おまえなんかいらない。


きみ以外を捨てさせて。


おまえ以外を選ばせて。




ねじれの位置にいる俺たち。





終 





ほぼフィーリングで書きました




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