どうしていいか、わからなくなる。


tears -G-




こっち見ろ。


「おーおぐーしくん」
「…」
ひょい、と目の前に回り込むと、苦々しい顔をした。いつもいつも、好意的な顔をされたためしがない。
「煙草なんか吸ってるからそーゆー顔になるんだ。甘いもん食え、甘いもん」
「顔は生まれつきだ」
「…そんな目付きの悪い子供いてほしくない…」
「もう子供じゃねーから安心しろよ死んだ魚の目」
「ひどい!」
ケタケタ笑う銀時を尻目に土方はすたすたと歩きだす。
銀時もそのあとに続く。

「おーおぐーしくん、てば」

土方は答えないし、振り向きもしない。

急いでるわけでもないくせに、足早に行ってしまう。

こっち向け。

こっち見ろ。


「なぁんでシカトすんだよ」


当然のように、答えはなく。



俺だってね、

傷つかないわけじゃないんだよ。


ちょっとだけ視界が滲んだのはみっともないので秘密にしておく。










誰か、泣いてる。


目の前は真っ暗で、なんか消毒液くさくて、体は動かなくて、さっきから泣き声が聞こえる。

「…ひじかた、」

泣きながら、呼ぶ、声。

「ひじ、かた…」

なんだこれ?

「起きろよ、頼むよ…」

瞼が開かないから無理だ。

「お前に突っ込んできたバイク野郎ボコボコにしてやるからさあ…」

ああ、事故ったのか俺。

「死ぬなよひじかたー…」

結構元気なつもりなんだがな。

「旦那ァ、うぜーっす。命に別状はねェって何度言えばわかるんでさ」

…お前はとどめを刺してきそうだけどな。

「うるせー、今未亡人の気持ちを味わってんだ。水差すな」

おい、殺していいか。

「…勝手にしてくだせェ。俺ァもう寝ます」

ふわあ、と欠伸をする声。いつものわざとらしいものと違って、本当に、眠そうな。

「そ。おやすみ」

「…旦那も寝てないんじゃねェですか」

ん?

「…眠くねーし」

「…そうですかィ。じゃ…あとで山崎来させますんで、それまでよろしくお願いしやす」

「別にいいのに」

「旦那を疑うわけじゃねェが、仮にもウチの副長なんで」

「…ふーん」

「じゃ、そゆことで」

ひとり、出ていく音。

「…」

無言。


「…はやく、起きてね」



…もう少し、眠っていよう。










大人には子供の気持ちはわからないし、子供には大人の気持ちはわからない。

というか、他人の気持ちをわかることなんてまずできない。

頭ではわかってるつもりだった、けど。


「アンタなんか大ッ嫌いだ!」


思わず口から出てしまったそれは、禁句だった。

動きを止めた銀時には構わずにボロアパートから飛び出して、自分の家までけして短い距離ではないのに、全速力で走り出す。

まるで子供だ。



「っは、ぁ、…はぁ、…っげほ、はぁ、はぁ、…はー…」
案の定家までまだ半分もいかないうちに足が止まった。ペースも何も考えずに全力疾走。
アホか。俺は。

涙が流れそうになる。そうだ俺はアホだ。馬鹿だ。ガキだ。

「…ちくしょー…」
壁に寄り掛かりずるずると座り込む。人が来るかもしれない、お人好しが声かけてきたらどうする、でももう走りたくも歩きたくもない。

ああもうほんと馬鹿みたいだ、あの人はどうしてるだろう。

もう普通に戻っているんだろうか。ありえる。きっといつもの調子でジャージ着て寝転がってテレビ見てる。

それはそれで、悔しい。

もうガキでもなんでもいいから戻ろう。戻って一発殴って家の近くまで送らせて、それから、

それから。

それでもう、終わりに、すれば、

もう、終わってしまうんじゃないだろうか。


思考はそこで停止して、体はふらふらと来た道を引き返していた。


彼は知らない。


ボロアパートの一室で放心した銀時が立ったまま動けなくなっていることを。


迷いながらもドアを開けると目が合ったとたんに飛び付いてきて、ごめんねと謝りながらぼろぼろ泣き出すなんてことを。


土方が知るのは、もう少し先。





終





押し倒せ!

愛されてるねー

先生、へたれ!





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