始まっていた。
終わりなんてない。
cherry blossoms
今、
卒業式が終わった。
もう誰も居なくなってしまった教室から校庭を見下ろし、
高校生活も終わってみればあっけないものだな、と土方は思う。
大学は第一志望に合格し、何の憂いもなく卒業できてしまった。
そう、何の憂いもなく。
一つ息を吐いて、校庭にある一本の大きな桜の木に目を留めた。
「…桜…」
呟いて、唇をなぞる。
『…またね』
柔らかな声が、頭によぎる。
あれは、誰の声だっただろう?
慣れ親しんだような、
ずっと探していたような、
声は。
「…ああ」
―――思い出した。
入学式の日、
満開の桜の中で、
…幻を、見た。
それは、桜が満開で、風が強くて、校庭には桜の花弁が敷き詰められていた、忘れもしない、入学式。
漆黒の制服を身に纏って、少し早く着いた、これから通う高校。
本当に桜が綺麗で、綺麗で、ふらふらと誘われて。
一番大きな桜の木を見上げ、散っていく花弁を眺めていた。
自分を見つめる視線には気付かずに。
「…新入生?」
突然声を掛けられた。
「え?」
土方は驚いて辺りを見回すが、どこにも誰も居ない。
「…?」
首を傾げ、空耳だろうかと疑う。
「何してんの?」
…空耳ではない。
続けて聞こえた声に、そう確信する。
「…誰だ?」
「んー、君の先輩、かなぁ」
上級生だろうか。
それにしたって、どうして姿を現さない。
「…何か用ですか」
若干の苛立ちを含めて問うと、どこかで微かに笑う気配がした。
「隠れてんなって?」
――心配しなくても、幽霊とかじゃ、ないよ。
おどけた口調。
幽霊がどうこうは別にして――ちょっと疑ったのも事実だが――、…見透かされている。
嫌な奴だ。
そう思った。
素直に渋い顔をすると、また小さな笑い声がした。
「名前、何ていうの?」
土方は不機嫌に答える。
「…山田太郎」
またぷ、と笑われる。
「あんたは」
「んー。山田隆夫」
「笑点かよ!」
「お、いいツッコミ。若いのによく知ってるね」
「…ジジくさ」
「…言ったなー。しばくぞ山田ー」
「アンタも山田だろ。しばく気なら出てきやがれ」
挑発するように言うと、何故か無言が返ってきたので、土方は首を傾げた。
「…よーし」
「?」
「今から出るから、ちょっと目ェ瞑ってて」
「…何で」
「何か、出てくるの見られてんの恥ずかしいから」
「…何だそれ」
「いーから!いいって言うまで絶対開けちゃ駄目!」
「…はぁ」
仕方なく、土方は言われた通り目を瞑った。
人の近づく足音。気配。
――出てきたんならもういいだろうが。
そう思って、「まだか?」と問おうと口を開こうとした、
瞬間。
…唇に、何かが触れた。
「…」
視界も思考も真っ暗に停止したまま、土方は立ち尽くした。
「…もーいーよー」
声がかかり、ハッとして目を開けると視界がひらけ、桜が鮮やかに映る。
そこには誰の姿もない。
「…な…!」
辺りを見回すが、やはり何処にも人の影は無い。
「何で、」
キーン…コーン…カーン…コーン…
チャイムが鳴った。…入学式が始まる前に、教室に向かわなければ、ならない。
…でも。
ふる、と頭を振る。
―――…幻、だ!
そうに違いない、と無理矢理納得し、土方はくるりと桜に背を向けた。
その背に、
「…またね」
そう声を掛けられても。
気付けば空は微かに赤く染まり始めていた。
いま、桜はまだ花を付けていない。
土方は窓際の机の上に座る。
―――…思い出してみれば。
「…あの声…」
そう呟いたとき、がらがらがら、と教室の扉が開いた。
「…あれ。多串くんじゃん。何してんの?」
三年次の担任だった、坂田銀時が立っていた。いつもとは違い、卒業式のままのスーツ姿で。
土方は何かを言おうと口を開こうとする。
―――あ、れ?
―――何だろう、何かが、
『―――何してんの?』
―――ああ、
―――…何だ。
顔に手を当て、く、と笑う。
「…アンタ、ここが母校っつってたっけか」
「ん?そだよ。何年度卒業生だったっけなー」
『―――君の先輩、かなぁ。』
土方はさらに顔を緩めて、笑う。
笑いながら、す、と人差し指を立てると、銀時は不思議そうにそれを見る。
「…山田くん。座布団、一枚」
土方のその台詞を聞いて、
銀時は少し、驚いた顔をしたあと、
――緩やかに、笑った。
「おそいよ、気付くの」
「…やかましい。いたいけな新入生の唇奪いやがって」
「誤解を招くような発言はやめなさい!」
「セクハラ教師」
「洒落になんないから!」
「へんたーい」
「ちょ、お前ちょっと黙っとけ!」
有無を言わさず。
口付けられた。
唇を離し、銀時はぎゅう、と土方を抱き締める。
「あー、やっと、手が出せる」
「…は…?」
「もう「せんせー」じゃないから、さ」
―――待ってたのか。
あの日から、ずっと?
「…は、」
あんた、ばかだな。
そう言おうとしたけれど、
何故か涙が流れてきた。
終
先生はいつも変態
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