それが本当の。
Knock on the door
女の子は好きだ。
ココに来てくれる子は(一応)みんな俺が好きだし、
重荷になったり度が過ぎたりさえしなけりゃ、好意を向けられるのは気分の悪いもんじゃない。
「金ちゃあん、久し振りぃー」
「はーいお久し振り。会いたかったよー」
だから俺はそれなりに楽しんでる。
修羅場なんて面倒なこともない、お気楽な擬似恋愛を。
―――…いや、
楽しんでた、筈だった。
「飲み過ぎたかも…」
調子に乗って酒空けすぎたかなぁ。
ふらふらとした思考と足取りで、金時は微かに白んだ空の下を歩いていた。
「…引っ越してえなぁ…」
今のマンションは店から徒歩45分。
明け方に酒が入ったまま歩くにはちょっときつい。
良い運動、とか思って気にしないようにしてきた、けど。
「―――さすがにこういう状況になるとねえ…」
周りを囲んでいる男たちに聞こえないように小声で、金時は呟いた。
先程からじろじろ睨まれて、気分が悪いことこの上ない。
「えー、と、…何か用ですかー?」
くい、と小首を傾げる。
可愛くも何ともねえんだよというツッコミは、残念ながら無い。
えっつまり可愛かったの俺。やー、まあ分かってたけど。
…て、そーじゃなくてね。
「…用は無えよ」
男の一人が言う。
じゃあそこ退けよ、なーんて言っちゃったら終わりだ。
「じゃー俺帰りたいんですけどね?」
なるべくソフトにソフトに。
「ここは通せないんでな、違う道通ってくんねーか」
また別の一人が言う。
冗談じゃねっつの。
この道を迂回したらさらに上乗せ20分だ。
あーでも関わりたくない。
しばし無言が流れた。
―――…ドカッ
「―――!」
その場にいた全員の目が変わった。
―――多分、人を、殴る音。
金時の目は、不審の色を濃くし。
男たちの目は、より厳しくなった。
「兄ちゃん、痛い目に遭いたくな―――がふっ」
ちょっと古い台詞を言おうとした男が、崩れ落ちた。
その後ろには鉄パイプを持った黒髪の男が荒い息を吐いている。
―――鉄パイプはないんじゃないの。
金時はそう思った。
「…だらあァァァッッ!!」
黒髪は咆哮をあげ、鉄パイプを振り上げる。
巻き込まれる、と感じた金時は、速攻で身を翻した。
どか。
ばき。
「…つーよいつよい」
男たちはどうも小振りのナイフを持っているようだが、鉄パイプのリーチには全く適わない。
あれよあれよといううちに、全員ノックアウトされてしまった。
すると黒髪はカラン、と鉄パイプを放り、そのまま危なっかしい足取りで歩きだした。
―――おいおいどこ行く気よ。
良く見れば顔には多々傷が確認できる。頭から出血もあるようだ。その上、片足も引きずっている。
―――ぼろぼろじゃん。
「ちょ、待っ…」
「逃がすかァッ!」
突然声が上がった。
無防備な彼の背中に、先程彼が捨てた鉄パイプが振り上げられる。
ゴッ
「…セーフ」
俺の上段回し蹴りがクリーンヒット。
男は横の壁に吹っ飛んで崩れ落ちた。
黒髪の男は呆然と金時を見ている。
「…おい、大丈夫?」
目の前でひらひらと手を振ってやると。
ぷつり。
まるでそんな音がしたかのように。
「ちょっ…!?」
黒髪の男は倒れこんだ。
どうかしてる。
ヤバい匂いがするのは十分わかっているのに、
得することなんか一つもないって思うのに、
「…やっぱ人間、損得勘定だけじゃないねえ」
金時は、傍らで眠る黒髪の男を眺めながら、そう呟いた。
―――それから数ヶ月。
「…あ〜飲んだ飲んだァ。今日は一段と飲んだァ〜」
「飲んだのは分かったからちゃんと歩いて下さい。転びますよ」
「とっしー冷てェー。運んでよ車までェ」
「自分で歩いてください」
「…トシィ?」
「…何ですか」
「大好きー」
「…はいはい」
「あいちてるー」
「…はいはい」
「冷てェー」
「…どうすりゃいいんですか」
「愛とかください」
「とかってなんですか」
「じゃあ愛ください」
「…酔ってるでしょう」
「酔ってるけど酔ってませんー」
「どっちですか」
「…おやすむぃ」
「ちょっと!!」
酒と香水の匂いに包まれた男を支えながら。
土方は「何でこうなったんだっけ」と思い返していた。
終
続く。
>-2
>back