叫びだしたくて、それでも。
抱きしめたくて、それでも。



イグノランス



暑い夏の午後。
土方は木陰に寝転んでいた。


蝉の鳴き声が絶え間無く響き、時々、部活をしている生徒の声が届く。


(…あちィ…)


つ、と額から汗が伝う。
しかし土方は動こうとしなかった。


サク、サク、と芝を踏む足音。

「土方さん」

悪戯に笑う沖田が、土方の顔を覗き込んだ。
土方は無言を返す。
そんな態度を気にも留めず、沖田は言った。

「先生、探してましたぜ」

「…そうか」

「戻らねェんですかい」

「…もう少し」


沖田は可笑しそうに笑って、歩いていった。
土方はゆっくりと目を閉じた。



―――どれ程経っただろうか。

また、サク、サク、と芝を踏む足音が、近づいてくる。


「土方」


目は、開けない。

「こんなところで寝たら、風邪引くよ」

…こんなに、暑いのに。


「あんま困らせんなよ」


―――ムカつく。


苛立ちながら口を開ける。…瞼は、閉じたまま。

「俺じゃなくても、できんだろ」

「…なんだ起きてんじゃん」

「別の奴、呼べよ」

「―――お前が一番要領良いんだよ」


―――ムカつく。


「…」

「だんまりかよ。こっちはオメーのせいで仕事滞ってんだよ早く来い」


―――ムカつく。


「…滞らせるくれェなら他の奴呼んだほうがマシなんじゃねェの」



銀時は一瞬、目を見開いた。

そして、可笑しそうにその目を細めた。


「…なァに。随分と反抗的だね、土方」


「―――」



ゆっくりと目を開ける。

銀時がにっこりと笑いながら覗き込んでいる。

それを見て、土方は皮肉な笑みで、言った。


「―――すいませんでした、先生。今すぐ行きます」


―――アンタは、何も分かっちゃいない。





大人げない。
自分でもそれは分かっているつもりだ。

それでも、傍に置いておきたくて。


『俺じゃなくても、できんだろ』

『他の奴呼んだほうがマシなんじゃねえの』


心臓が跳ね上がった。

見透かされて、いるようで。


―――だんまりかよ。こっちはオメーのせいで仕事滞ってんだよ早く来い

焦って。

―――…なァに。随分と反抗的だね、土方

焦って。


高圧的な態度をとることで、動揺を隠そうとした。


そしたら、あの顔だ。


―――お前は、何も分かっちゃいない。





『好きなんだ』と。

叫びだしたくて、
抱きしめたくて、



それでも。



「―――もう、俺と、こうして居るの、嫌?」
どうして、そういうことを、アンタは。

「…」
どうして、黙るの、お前は。


「黙ってちゃ分かんねえよ」
「嫌なんて言ってません」
「…お前さ、俺には良いよ、敬語」
「先生ですから」
「さっきはあんな口きいてたじゃん」
「すいませんでした」
「だから怒ってる訳じゃなくて」


なんて不毛な会話。


違うんだ、そうじゃない。


ただ、


アンタと。
お前と。


『一緒に居たいだけ』


アンタが。
お前が。


『好きなだけ』


叫びだしたくて、
抱きしめたくて、



それでも。



『…怖いだけ』




終





すれ違い。




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