これだけは、真実だと誓う。
言の葉
…最初から分かっていたことだ。
あいつはもう大人で。
自分はまだ子供で。
その境界は明らかではないけれど、
確かに引かれている細いライン。
それだけでこことは違う世界になる。
境界線に立つ自分。
未だ、そのラインは越えられない。
透けるような青空を臨む、昼休みの屋上。
その学び舎の頂上で、不謹慎にも喫煙に勤しむ一教師と一生徒。
「せんせーはね、嘘ばっかり吐いてきたよ」
大人になるって、嘘がうまくなることじゃないかな。
そう言って銀時は笑った。
「…夢がねェな」
言いながら土方は煙を吐く。
「もう夢なんか追う歳じゃあないからね」
くっくっ、と笑い声。
銀の髪がふわふわと揺れる。
土方は煙を吐きながら空を見上げた。
遮る天井もなく、空は快晴。
煙は薄い雲のように舞う。
―――煙草なんてものは、ちょっとした背伸びに過ぎない。
大人、とは何だろうか。
成人すれば大人?
働くようになれば大人?
嘘が上手く吐ければ大人なのだろうか?
「ひじかた」
銀時も、空を見上げる。
「…お前はさ、もうちょっと子供でいてよ」
ぽつりと呟く。
もう少しだけ、
ここにいて。
この手の中に。
「…俺は、おとなになりたい」
早く。
アンタと、同じところに。
「…そっか」
すぐだよ、と銀時は泣き笑いの表情を浮かべる。
土方はそれを見ていなかった。ずっと、空を見ている。
「…アンタは、早く大人になりてーとか思わなかったのかよ」
「ん…、そうだね。思ってたかもしれない。…けどね、」
そこで言葉を切り、煙草を咥え、深く吸う。そして、ゆっくりと吐く。
「…気付いたときにはもう大人になってるんだよ。…いくら願っても、子供には戻れないって、気付くんだ」
いくら望んでも。
きみと同じところには。
「…ふーん…」
土方は、戻りてェの、と呟く。
「…どうなんだろうね」
銀時は、わかんないや、と笑った。
二本の煙が、細く消えていった。
―――好きってのは、何だ。
土方はぼんやりと考えた。
そしてしばし無言のまま、空を見上げる。
「…土方君っ」
すると、泣きそうな声をかけられた。
その声の主を見ると、目に大粒の涙を溜めていた。
…告白した後に無言で放置されては、泣きたくもなるだろう。
土方はがしがしと頭を掻いた。
「…悪ィけど」
ぽつりと呟く。
しん、と静けさが通り過ぎる。
ぼろっ、と、
その目から涙が零れ落ちた。
「…っ」
そして何も言わずに、走り去って行った。
ぼんやりとそれを見送った土方は、その場に座り込み、
煙草に火を付けた。
『好きなの』
―――好きなんだよね。
『付き合って、欲しいの』
―――付き合ってくんない?
だから、
好きって、何だよ?
再び透けるような青空を臨む、昼休みの屋上。
またもや学び舎の頂上で、不謹慎にも喫煙に勤しむ一教師と一生徒。
「…せんせー」
棒読みもいいところというような土方の発音に、銀時はブッと吹き出した。
「…何でしょう?土方クン?」
煙草をくわえてくっくっと笑いながら問う。
土方は煙を吐いた。
「好きってなァ何だ」
銀時はぽろりと煙草を落とした。
「…え?」
沈黙が流れる。
わかんないの、と小さく銀時が問う。
わかんねェ、と土方は返す。
銀時はじり、と落とした煙草を踏み消し、土方に歩み寄る。
「…じゃあ」
―――特別授業。
そんな囁きが聞こえた気がした。
あとはただ、
煙草を取られて、
その手で目隠しをされて、
あとはただ、
…暗転。
二人はぺたり、と屋上の床に座り込んでいた。
「…せんせーはずっと、嘘ばっかり吐いてきたけどね」
そしてきっと、これからも嘘を吐くのだろうけれど。
銀時は新しい煙草に火をつけながら言う。
「これだけは、」
信じて欲しいんだよ。
きみに。
…もう一度、言うよ。
そっと呟く。
「すきだよ」
それは、
土方には確かに深く、重く、響いた。
終
生徒と喫煙するわ手ェ出すわ…
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