逃げられない、なんて。
最初から分かっていた。


恋情同意


…時が止まった。
ような気がした。

「ソレ」は突然現れた。―――いつもとは違う、「あの眼」で。

会いたくなかった。会ってしまえば、確実に何かが壊れてしまう気がした。

―――そう、気付いてはいけないことに、

「お前さ、」

―――…気付いてしまう。




「俺を好きになれよ」




ああ、手遅れだった。

眩暈がする。

奴の眼が。口が。舌が。指が。腕が。胸が。声が。
…「あの日」のまま、よみがえる。

「なァ、土方」


そう、その声に、
ぞくり、とした。


「俺が好きだろ?」

勝ち誇ったように笑いながら、自身ありげに聞いてくる。


違う、と言おうとしないこの口が憎い。

笑みを浮かべたまま、銀時がゆっくりと歩み寄ってくる。


―――耳鳴りがする。
これは、…己の警鐘ではないだろうか。


銀時が手を伸ばす。
耳鳴りは、一層大きくなる。


しかし、その手が触れる直前。

耳鳴りが、止んだ。


ばっ、と土方は勢い良く後退した。
それが銀時には予想外だったらしく、笑みを消し、ゆっくりと腕を下ろした。

嫌な汗をかいている。土方ははぁ、と下を向いて息を吐いた。


「…何」
短い銀時の言葉に、土方が顔を上げる。


「何が、そんなに恐いわけ」


恐い?
違う。
首を振る。


「違わねーよ。何恐がってんの、オメーは」


首を振る。


「…いいから、ちょっとこっち来いって」


ずい、と近づいてくる。
ざ、と一歩下がる。
銀時は少しムッとしたようだ。



「…なァ、触りてェんだけど」



なんて、

なんてことを言いやがるんだこいつは。


土方は固まった。


「動くなよ」


嫌なもんは嫌だ。

…なのにこの足は動かなくなる。


耳鳴りが――煩い。


首筋に手を添えられる。
ぞわ、と鳥肌が立った。

銀時の顔が、近づいてくる。


耳元へ。


「…ウチ、来いよ」




土方は何故か泣きたくなった。







―――そして、万事屋。
…の、居間のソファ。

二人はそこに向かい合って座っていた。

土方はテーブルの湯呑みを見つめたまま、ぴくりとも動かない。
…本当は和室に連れ込んで押し倒そうと思ったけどさ。
道中考え直した。

それじゃあ意味が無い。

銀時はずず、と自分で淹れた茶を飲んだ。


暫しの沈黙。


「…これ以上」
土方が口を開いた。銀時は、ん?と言いながら湯呑みを置く。

「…何が、欲しいってんだよ」

こちらを見ないまま呟いたように発したその言葉に、銀時は少し驚いた。
そしてくっ、と笑う。
「…なんだ、わかんないの」
土方は押し黙った。

一瞬の後、

がっ、と手を伸ばしてスカーフを掴み、強引に引き寄せ、鼻先が触れ合うまで顔を近づける。


何が起こっているのか分からない、という顔の土方。

それを見て銀時は可笑しそうに笑った。


「全部だよ、土方」


お前の体も心も命も全部。


そのまま更に引き寄せ、口付ける。
驚きで力の入っていない唇をこじ開け、舌を突き入れる。
「ん…はッ、ふ…」
声が漏れる。しばらく好きに口内をまさぐっていると、ようやく正気に戻ったのか、力なく抵抗しだした。
「やっ、め…」
静止の声も聞かなかったことにしてぞろりと歯列を舐め、口付けを続ける。
「ん…んッ、んぅ…っ」
さすがに苦しそうになってきたので口を放してやると、銀糸がつ、と互いの口に引いた。
ぱっと手も放してやると、土方はずる、とテーブルに伏した。

ちょっと無理な体勢だったかな、と考えながら、銀時はこきこきと首を鳴らした。
土方を見ると、まだ伏したまま息を整えている。

「良かった?」
「…死ね」

憎まれ口を叩く余裕はあるようだった。それでも顔を上げようとはしないが。

「なに、ちゅーだけでメロメロ?腰砕け?」
「…黙れ、死ね」
「俺はメロメロ」
「ッ!!」
土方は弾けるように顔を上げる。


潤んだ目に、赤い目元。


ああ、どうしようもない。

いいよ、それが答えで。


「…なァ、俺のこと好きだろ」


楽しくてしょうがない。
嬉しくてしょうがない。


玩具を買って貰った子供の気分。


あんまり嬉しくてにこにこ笑っていたら、土方は呆れたように短く溜息をついた。
ああ、俺子供なんだなって思ったら、やっぱり可笑しくって笑った。



もう、君に夢中。

多分、離せない。



終





それでいいのか土方…







>back