それはどこまでも真っ白な、
紅雪
深々と雪が降る。
白い雪と。
グレーの空と。
モノクロの世界。
音は消えていく。
霞んでいく視界に映るのは、降り続く雪だけになる。
…あァ、
真っ白だ―――
「ゆき、だね」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
視線だけで疑問を示すと、くす、と笑いながら窓を指差す。
「外」
言われて、ようやく「雪」だと理解する。そう言われれば、外気もひんやりとしている。
「…降ってんの、か」
擦れた声が出た。
「うん」
――起きる?と聞かれ、首を振る。
「だるい」
微かに笑いが漏れた。むっとして、その銀の髪を軽く引く。
「いてて。反省します」
「そうしてください」
くすくすと笑い合って、目を閉じた。
「…寝ちゃうんだ」
残念そうな声。しかし目を開ける気はない。
「寝る」
きっぱりと言い放つが、する、と背中を撫でられる。
「…な、もっかい」
「無理」
ぺし、と手を叩くと、ぶう、と不満の声があがる。
「いっかいだけ」
「明日も仕事」
大事な、任務がある。
「…ちぇ」
口を尖らせて、隣に寝転がる。
「…おやすみ」
「おやすみ」
一度だけ口付けを落として、眠りについた。
「今回の指令は――」
「極秘のものであり――」
「真選組内でも特に信用できる――」
「貴殿に任せた次第で――」
「内容は至極単純――」
「ここに――」
「場所を印した地図がある――」
「迅速かつ的確に――」
「――奴らを始末せよ」
土方は、
ゆっくりと、目を閉じた。
「…御意に―――」
深々と、雪が降る。
白くて、冷たい。
「う、わぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃあぁぁあぁぁあ!あぁあ!!」
雪が音を。
吸収して。
その紅も。
吸収して。
深々と。
深々と。
降り続け。
紅く赤く。
じわじわと。
染み込んで。
刀を払う。
新しい紅が、雪に散る。
―――全滅の確認で、終了だ。
そう告げた監視役の男達は、
物言わぬ肉塊となって転がっていた。
さくさくと雪を踏み、打ち破った戸の中を確かめる。
がたり。
…少年が、転がり出た。
「あ…あぁ、あぁあ…」
腰を抜かし、
声帯が壊れたかのように、
震える声を出し続ける。
す、と。
刀を、震える喉元へ。
小さな、喉元へ当てて。
血に塗れた眼で、
血と涙と鼻水に塗れた少年の顔を見る。
がたがたと。
震えて。
瞳は。
恐怖に満ちて。
その眼で、
土方を見る。
「…」
何も言わず。
土方は、刀を、
引いた。
踵を返し、
懐紙で刀身を拭い、
去っていく。
さく。
さく。
雪が、鳴る。
―――帰ろう。
ふ、と雪の降る空を見上げた、
刹那。
―――ドッ
「――っ、」
背中に、
…何かが、
――子供。
体から、
…何かが、
――刀。
赤く光る刃が、
ずる、と、
引き抜かれる。
どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく、と。
血が。
急速に。
失われる。
「――っ、あ、」
がくりと、膝をつく。
小さな声。
怯えたような、子供の。
「うわ、ぁ、あぁぁあ、あぁ、あ…」
震えながら。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあァあぁァあァァぁァあ!!!!」
叫んで。
走り去った。
…もう、戻れないだろう。
あの少年は、きっと。
一人では、耐えきれない。
ひとをころすこと。
それは、潰されてしまいそうなほど、重い。
どさり、と。
雪の中に、沈む。
ひんやりと、
熱を奪っていく。
目の前は、白。
ぐっ、と。
最後の力で、体を返す。
もう痛みは無い。
空を見上げる。
深々と、雪が降っている。
白い雪と。
グレーの空と。
モノクロの世界。
自分の周りには、紅く染まった雪。
―――随分と、
綺麗な終わりだ。
知らず、笑みが零れた。
―――これで、煙草でも吸えりゃァな。
生憎、水分――雪か血か――で湿気ているだろう。
思考に霞がかかる。
もういいか。
もういい。
この眩しい白のなかで。
眠れるのだから。
目を閉じる。
心地好い暗闇に、包まれた。
終
白と、黒と、赤。
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