笑って、手を繋いで、それから。


僕達の計画



「結婚して」


間違いなく目の前の男が言い放った言葉。
そのたった六文字の言葉を、認識できても理解できない。
だから土方は己の耳を疑った。

「―――は?」

聞き間違いであることを願った。
しかし無情にも、疑いようもなくはっきりと銀時の口からその六文字は繰り返された。


「だから、結婚して」


けっこんして。


…なんじゃそりゃ。


思わずキャラの違うツッコミをしそうになった。

どうにもなりそうにないのでとりあえず目の前の男に背を向け歩き出す。

「うおーい、おーぐしくーん。シカトですかー?プロポーズですよー?」

能天気な声にぴたり、と足を止める。
ゆっくりと振り返った土方の顔は、

ものすごく嫌そうだった。

「…斬られたくないなら今すぐ失せろ」
「物騒だなオイ。いやいや、俺超真面目よ?どう?」
「…『断る』」
「あそう、駄目?じゃあ同棲して」
さらりと言った。
何が目的なのか全く解らない。

「…『断る』…」
「まだ駄目?んじゃあセフ…」
「だァっ!放送禁止じゃボケ!」
「大丈夫だよ大人のおねーさんしか見てないから」
「何の話だー!!」
「いや、だから…」
「良い!説明しなくて良いから!断る!」
「なんだよ多串くんわがままだなァ。んじゃあね…」
「待て待て待て待て。なんだ?テメェは何が目的だ?コラ」
「今ハードルに挑戦中なんだよ」
「ハァ?」
「いいからいいから。な、じゃあさ、恋人になって」
「ハァァ!?」
「多串くんハァハァ三兄弟の親戚か何か?」
「…誰だそれ」
「や、なんでもない」
銀時は笑って顔の前で手を振った。

「おま…」
「で、どう。恋人は」
「え…」
「駄目?」

「…」

土方は黙り込んだ。

それを見て、銀時はにやぁっと笑った。

「いいよ、じゃあ―――…オトモダチから、ね」


耳元で囁く。


「…ッ、発展の望みは、ねェな!」
土方はバッと銀時から体を離し、そう吐き捨てた。
「いや、あるね」
しかし銀時は、絶対の自信をもって言い切った。
「…ハァ?」
「じゃ、またな」
「ちょ…オイ!」

突然くるり、と背を向けた銀時を、土方は追おうとした。
するとまたくるりとこっちを向いた。
「な、」
「忘れもん忘れもん」



ちゅ。



「またね、土方」


鼻歌を歌いながら去る銀時。

土方はぴしっと固まったまま、それを呆然と見送った。





「土方さん、おめでとーごぜーます」

身に覚えのない言葉だった。
「…は?」
だから土方は困惑した声をあげた。
沖田はにやにやと笑っている。
「こーゆーのを寿退社って言うんですかねィ」
―――いやソレ多分絶対間違ってるから。
全力で否定したくなった。
「いやいやいや、何?まったく身に覚えがないんですけど」
「あれェ?そうですかィ?俺ァてっきり万事屋の旦那とよろしくやってるもんだとばかり」
「聞いてたな!?テメェ聞いてやがったなァァ!?」
土方はがっと沖田に掴みかかるが、当の沖田は何処吹く風。
「往来であんなこと話してりゃ嫌でも聞こえまさァ」
するりと抜け出し、どたどたどた、と追いかけっこが始まる。
「あれはなァ!あの白髪ヤローが勝手にッ…!」
「なんでもいいからさっさと消えてくだせェよ土方さん」
「…ブッ殺すッ!」
土方がスピードを上げようとしたその時、意外な声が響いた。

「ひーじかーたくん」

ぴたり。

いつの間にか銀時が立っていた。

「お、噂をすりゃァなんとやらですねィ、旦那」
「なァに楽しそうに追いかけっこしてんのかなー?」
「テメェこれのどこが楽しそうにッ…」

んー?

銀時はにっこりと笑う。
土方はつう、と背中に冷や汗が伝うのを感じた。

―――何だ、コレ。

それは野性のカンか。
土方は敏感に危険を察知した。

「なァ多串くん、遊び行かない?」
「…い、くわけ、ねェだろ」
「遊園地とかどーよ」
「人の話を聞けッ!」

「初デートっつったら遊園地だろー?」

はつでえと。

何だその言葉。

「…寝言は寝てから言え」
「おめめパッチリですけど」
「いいから寝てろお前は。そして起きてくるな」
「どういう意味よソレ」
「一緒に寝ようって意味でさァ」
「んなわけあるかァァァ!!」
ばこん、と沖田の頭を殴る土方。

しかしその途端、背筋にぶわっと冷たい汗が吹き出した。

「…な、」
恐る恐る振り返ると、
そこにはまたもにっこりと笑う銀時が。

「…ホント、仲良いね、お前ら」

最大級の警報が作動した気がした。


―――なんで、

―――なんで俺がビクビクしなきゃなんねェんだ!


「妬いてんですかィ旦那」
「うん、ちょー」
「肯定すんなァ!」
「安心してくだせェ、俺ァ土方さんなんか眼中にもありやせんからねィ」
「ほんっとムカつく言い方すんなァお前はッ」

土方が沖田に向かって声を張り上げたそのとき。

―――びくり。

本日三度目。

振り返るのが恐い。


「…で、さ」


完全に声が冷えている。


「いつ暇?土方」


―――暇を尋ねる顔じゃねェよ、お前。



「旦那、シフト表ならここに」
「んーありがと」
「総悟ッ!」
「とばっちりは勘弁でさァ」
「テメッ…」

「じゃ、また明日な、土方」

「…え」

もはや銀時の姿はない。

「ちょーど非番でしたかィ」
「…てめェェェッッッ!!!」

ひらり。沖田は土方の拳から難なく逃げ、くくく、と笑った。


「ま、おデイトでも頑張って下せェや」

そう言い捨て、すたたたたっと走り去る沖田。
土方にはもはや追う気力もなく、ふらふらした足取りで屯所に帰っていった。





―――また明日、ってよ…


障子を開け放ち、ふう、と煙草の煙を吐く。
藍色の空には月が煌々と光っている。

―――…晴れそうだな…

ふっと考えてから、ぶんぶんと頭を振る。

―――いや、安心とかしてねェから!
―――寧ろ雨でも降っちまえば、


『また明日、な』


―――馬鹿じゃねェの!
―――晴れたとしても誰が、


『土方』


―――名前、を、

―――呼ばれたくらいで。

じり、と灰皿に煙草を押し付ける。

細い煙が一筋、流れた。





遊園地に行って、

また次の約束して、

笑い合って、

手を繋いで、

見詰め合って、


それから?





―――僕達はどこまでいける?





終





本当に何が書きたかったのか。




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