ああ、夢なら覚めないで。


ゆめまぼろし


「あー…だりィ…」
銀時は心底だるそうに呟いた。
ソファに凭れかかる様を見て、新八はその顔を覗き込んだ。
「…銀サン、なんか顔赤くないですか?熱でもあるんじゃないですか」
「んー…そーかも…なんか頭痛ェし…」

神楽がピ、とテレビのスイッチを入れる。
ちょうどニュースが流れた。


『現在、ここかぶき町では原因不明の感染症が蔓延しております。
主な病状は高熱、頭痛、それに伴う幻覚症状などです。
空気感染型ですので、外出の際にはなるべくマスクなどをつけることをお勧めします』


…丁寧にありがとうアナウンサーのおねえさん。

でもちょーっと遅かったかな。


テレビを見ていた新八と神楽は、ゆっくりと振り返った。

「…銀サン」
「…銀ちゃん」


銀時はぐったりとソファに倒れこんでいた。


「ちょっちょっちょっと、マジですか!?ちょっとォォ!銀さァァん!」
「銀ちゃーん!!死にそうアルか?死ぬアルか?再起不能アルかァァ!?」
「あ…アタマ痛ェ…響く…」
言うと、新八は慌てながらもしー、と人差し指を口に当てる。
神楽は心配そうな顔で銀時を見る。

銀時はゆっくりと息を吐き、重々しく口を開いた。





「…いい迷惑だな、こりゃァ」
マスクでくぐもった声で、土方は言った。

真選組屯所。
寝込む隊士、十数名。

「さっきニュースでやってましたぜ。新種の流行り病だそうで。こりゃひでえや」
沖田はざっと広間を見渡した。
つい先日、蚊の天人が入り込んできた時と同じくらいの人数がずらりと並んでいる。
「ったく…どうせどっかの天人が持ってきたんだろうがよ…」
困った様に土方が頭を掻くと、寝込んでいた山崎が搾り出すように声を出した。
「ふ、副長…沖田隊長…」
土方は山崎の枕もとにしゃがんだ。
「…オイ、大丈夫か山崎」
「俺は大丈夫ですんで…、コレ、空気感染するみたいだし…あんまりココに居ない方が…いいですよ」
「安心しろ山崎、骨は拾ってやらァ」
「隊長…シャレになんないです…」





『―――感染症の病原体が判明したという情報が入りました。
現在、ワクチンの製造が急がれています』




「…あー…」
銀時は無音に耐え切れず自ら声を上げるが、それは痛む頭に響くことになってしまう。

昨日、二人は道場に避難させた。
さすがにうつしちゃまずいだろうと思ったからだ。

(…静かだな)

万事屋を始めた頃を思い出す。
比べて今は、騒がしくなったもんだ。

新八、神楽。
昔の仲間。

…真選組。


―――会いたいなァ。
いや、今会っちゃまずいか。うつしちゃうよ。
…ていうか、もうかかってたりとかしねーだろうな。
うわー…、心配になってきた。
あいつ外回り多いから、もしかしたら今大変なんじゃねえの?
真選組、で、集団感染、とか。
…あー、ちくしょ。ムカつく。なんで俺動けないんだよ。

頭が朦朧とする。

熱に浮かされて、目の前が霞む。

耐え切れず、銀時は眼を閉じ、眠りへ落ちていった。




―――…カタ、カタン。


微かな物音がして、銀時はうっすらと眼を開けた。

「…アレ…?」


黒の隊服が目に映る。

あ、なんか、都合のいい幻が見える。
そろそろヤベーのかな、俺。

額にひんやりとした感触。
手、かな。

「…きもちいー…」

そのとき、ふ、と笑った声が聞こえた気がした。


「…粥、食うか?」


ええ、何。そんな。うわぁ。


「…いい夢見てんなぁ…俺…」

「…あ?」

「土方が俺の面倒見てくれてるよ…すっげーいい夢…」


夢の中の土方は面食らったような顔をして、
可笑しそうに笑った。


「―――…あー、夢だ夢だ。…だからそのまま浸ってろ」


冷たい手が、額を撫ぜた。

…こりゃァ、
本格的にいい夢だ。

やりたいことやっといたほうがよさそうな気がする。
だってこれは夢だ。病気がうつる心配もないし、怒って斬られる心配も、多分、ない。


「…なー…」
「…あん?」


「食べさせて、欲しいかなー…」


言った。
言ってやった。

土方は目を見開いていた。
あ、なんか反応がリアル。

ちょっと顔を赤くして、そっぽ向いて考え込んでる。

ちらっと横目で俺を見てから、

覚悟を決めたようにスプーンを手にとった。




「…うまかった。ごちそーさん」
「………おう」

照れているのか、そそくさと食器を片付け始める土方。
その後姿を見つめる。

もう、この夢、覚めなくていいよ、ホントに。
あーでもおかしいな、夢ん中なのに、眠くなってきた。

そんなことを考えながら、銀時はゆっくりと眼を閉じる。

「…オイ?」
土方が声をかけた。しかし、銀時はすでにまどろみの中だ。
「…んー…」
「眠いのか」
「…うん…」
「ちょっと待て、寝る前にコレだけ…」
「…んー…」
「…オイ」
「…」

「………しょうがねえな…」


最後に感じたのは、唇に触れた柔らかい感触と、液体を飲み込む感覚だった。





「―――っ…?」
ぱちり、と目が覚める。

銀時はゆっくりと体を起こし、辺りを見回した。
これといって変化は無い。いつもの、万事屋である。

―――何か、いい夢見てた気がする…

うっすらと考えながら、ふと気付いた。

頭痛が無い。体もだるくない。

「…アレ?」

首を傾げていると、カラカラ、と玄関の空く音がした。

「銀さーん、大丈夫ですかー?」
新八だ。
とたとたと入ってくると、「ああ大丈夫そうですね」と軽く言った。

「…なんでこんな早く治ったんだ?自然治癒?俺もまだまだいける?」
「何言ってんですか。来てくれたんでしょう?」
新八は呆れたように言った。銀時はその言葉の意味がわからない。
「は?誰が」
「え?土方さんですよ。真選組に支給された薬が余ったから、届けてやるって言ってくれたんです」

銀時はぴしりと固まった。
新八は構わず続ける。

「自分はもう薬を飲んでて、うつる心配は無いからって。ホント良かったですね、銀さん」


銀時はだらだらと汗を流している。


―――いやいやいやいや、
待て待て。待て。

土方が?
ウチに来た?

薬?

え?

だってアレ、


夢、だ、ろ?


「…――――っ!!!!!!!」


ゆ、ゆ、ゆ、夢、じゃねェのかアレ!!!!


やばい、やばいやばいやばい、
お、俺、何した?何言った?


…ど、

どうしよ、

あんなこと、させちゃったよ。



俺、多分、今なら幸せすぎで死ねるよ。



銀時は真っ赤になりながらソファに突っ伏した。





終





なにこの恥ずかしさ




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