みっともなくても
格好悪くても

君が好きなんだ。


幸福論


「ねーマジ本当お願い。銀さんこのままじゃ死んじゃう。多串くん欠乏症で死んじゃう」
「土方だ」

未だに「多串くん」と呼ぶ銀時と、それに律義に返す土方。それは、いつも通りの光景だ。
ちなみに、ここは往来である。

「あーうん土方欠乏症でいいから。今ホントせっぱつまってんの俺」
「あのな、俺は仕事ちゅ」
「んなのどうでもいいから今すぐセッ」
「ココでそれ以上言いやがったら真っ二つにすんぞコラ」

…もう一度言う。ここは往来である。
さらに二人の状況を説明すると。

いつものようにかっちりと隊服を着て見回りに精を出す土方に、後ろからまるで吸盤があるかのように銀時がくっついている。
土方はほとんど銀時を引きずって歩いている。

そして先程のような会話を繰り返している。

…しつこいようだが、くれぐれももう一度言っておく。ここは幾多の人々が通りすがる往来なのである。

好奇の視線がちくちくと土方を刺す。しかし元凶である銀時は全く気にしていない。
…それどころか、どこか意図的に見せつけているようにも思える。

そう言えば前に、
『お前んとこの隊長みてーにスピーカーで、これは俺のですーって言いながら町歩きたい』
…なんて言っていたことがあった気がする。

…斬りたかった。

以前までの土方なら迷わず刀を抜き放っていただろう。

しかしまぁ、仮にも恋人同士?だというのに、何かと都合がつかなかったのは土方の方が多く、ここ数日会えなかったのも事実だ。

しかし今はまだ仕事中。

しかしこの状況。


…どうしろってんだよ。


土方は深い溜息を吐いた。


すると、
すっ、と銀時が離れた。

驚いた土方は慌てて後ろを振り返る。

銀時はじっ、と土方を見ていた。

その眼は。
その眼は、まるで。

―――ガキか、こいつは。

そう思うと少し可笑しくなって、土方は。

もういいか、と諦めた。

「銀時」

不敵な笑みを浮かべ呼ぶと、銀時は眼を見開いた。

「行くぞ」




互いが互いの服に手をかける。
半ば剥がされるように隊服を脱がせられ、土方は「痛ェよ」と抗議の声をあげた。
しかし銀時は構わずそのまま隊服を剥ぎ取り、段々と露わになる素肌に、たまらず唇を寄せる。
「っお、いっ…」
性急なその動きに、土方は脱がす手を止めざるをえない。
銀時はもどかしそうに自ら服を脱ぎ、床に放った。

肌と肌が吸い付くように密着する。
どちらともなく唇を合わせ、深く舌を絡める。
「…っん…」
口付けの間にも銀時の手は土方の体を這いまわり、味わうように愛撫を続ける。
擽ったいような、むず痒いような。
甘い痺れが体を走る。

唇を離すと、銀時は土方の肌に次々痕をつけていく。
常々、見えるところにつけるなと怒るのだが、それはいつもばっちり付けてしまった後の話で。
ごめん、忘れてた、次は気をつける、と何回聞いたことか。
…いや、わざとなんだろうか。
ありえそうな話だ。ていうか絶対そうだ。
そんなことをつらつらと考えていると、鎖骨の辺りに痕をつけていた口が、突然首筋を噛んできた。
「いっ…」
思わず顔を顰める。土方は目の前にある銀の髪を、抗議するように引っ張った。
すると銀時は口を離し、土方と眼を合わせた。
「…何考えてんの」
そう言って血の滲む首筋に舌を這わせる。それを聞いて土方は、にっと笑った。

「…自分に嫉妬してんじゃねーよ」

ぴた、と銀時の動きが止まった。

「…」

そのまま、動かない。

動かない。

「…オイ?」
さすがにちょっと心配になって、土方は銀時に声をかける。
「…銀、時?」
呼ぶと、ぎゅっ、と銀時の腕に力がこもり、抱きすくめられた。そのままぎゅーっと、どんどん力が込められる。
「ちょ、痛ェっつの…」

「…ムリ、もうムリ、お前、何なの」

「はァ?」
全く要領をえない。困惑する土方は、なんとか銀時の顔を上げさせようとする。
すると、銀時はゆっくりと顔を上げた。

「―――」

その、眼。

けして、子供のような、ソレではなく。

土方の背筋に、ぞくり、と何かがはしる。

ああ、駄目だ。

「止まん、ねェ」

そんな、欲を滾らせた眼で。

土方は笑った。

好きにしろ、という眼で。





「…あー…もう駄目。銀さん幸せすぎて死んじゃう…」
「テメ…どっちにしろ死んでんじゃねーかよ」
そう言って土方は脱がされ放られた隊服をごそごそと探り、煙草とライターを取り出す。
「ニコ中ー」
「うっせー」
適当な返事を返し、ついでに携帯を探りあてる。

…うわ。

着信五件にメール三件。
どれも一時間以上前のものだ。土方は溜息を吐いて頭を抱えた。
面倒そうにメールを確かめようとすると。

ぱっ、と。

取り上げられた。

「…何してんだよ。返せ」
「やぁだよ」
銀時は取り上げた携帯をぱたん、と折りたたみ、ぽいと放ってしまう。
「あっ、テメっ」
それを追いかけようと身を起こすと、土方は銀時の腕に絡め取られた。

「もうちょっとさ、幸せ感じさせてよ」

そのまま抱き込まれ、身動きが取れなくなる。

…果たして無事に帰れるのだろうか。

よしんば帰れたとしても、…なんと言って帰れば良いのか。堂々とサボってしまった。
いや、正しくはサボらせられたのだが。
しかしよくよく考えると、「行くぞ」と言ったのは土方だった気がする。
いや、でもそれはいい年こいて拗ねた真似なんぞする銀時のせいで。
どっちかというとそれに絆された土方の責任で。

つまり、…どっちもどっちというか。

考えるのも面倒になり、ちら、と銀時の顔を見る。
…なんというか、ものすごく満ち足りた顔だった。

そう、その眼が。
本当に幸せそうに、見つめてくるから。

土方は、まあいいか、と笑った。





終





なにこの人たち…




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