ねえ。
俺もそれが欲しいと思うのは。
そんなに、高望み?
シーソーゲーム
「…いてえ」
いつものようにふらふらと、しかしいつもとは違う顔で町を歩きながら、銀時はぽつりと呟いた。
左肩の痛みに顔をしかめている。
…あの野郎。
池田屋でちょっと暴れたら目をつけられて、この前仕事先でばったり会って、いきなり屋根の上でさくっと斬られた。
無茶苦茶だ。ついでに理不尽だ。
あの後ハゲに怒られて、仕事は増えるわ報酬はカットだわ治療代はかかるわ、…お蔭で赤字。
そのせいでチョコパを食い逃した。
ありえねえだろ。
俺、被害者じゃん。
はぁ、と溜息をつき、ごそごそと懐を探る。するところん、と飴玉が一つ出てきた。
無いよりはマシなのでためらい無く口に放り込む。
イチゴミルクの甘い香りが漂った。
…ん?
前方に見える黒い塊。
見覚えのあるソレ。
「…うわ」
いたよ、いたいた。ちゃんと刀も新調しちゃって。
「…えーと、…なんだっけ」
また名前忘れた。
「…まいっか」
名前を思い出せばどうということもない。
このまま進まずにくるっと引き返して、遠回りで万事屋に帰れば平穏無事に一日終了。お疲れ様。
うんうんと一人納得し、銀時はくるりと踵を返した。
+
「じゃーね銀ちゃん、ちょっと散歩がてら酢昆布買ってくるアル」
「あー…あ、ちょっと待て」
ソファの上でジャンプを開いて顔に乗せ、居眠りをしていた銀時だったが、むくりと体を起こして神楽を呼ぶ。
「何アルか」
「ついでに飴。飴買って来い」
そう言うと神楽はすっと手を出した。
「金寄越せ」
「…神楽はいつからあんなに口が悪くなったのかなぁ新八くん」
「元からじゃないですか?」
―――肩の傷は大体治っていた。
まあ、もともと刀が振り回せる位の傷だったから、治りも早かったわけだが。
「さーて、仕事にでも行くかね」
神楽が買ってきた飴を数個忍ばせ、銀時はこきこきと首を鳴らした。
相変わらず日雇いのバイトのような仕事しか入っていないが、それでも貴重な収入源。
二人に留守を任せ、銀時はやる気なさそうに万事屋を後にした。
包みを開け、ころりと丸い飴玉を口に放る。
じわりと甘い味が口内に広がった。
「あ〜、労働の後の糖分は最高だな〜」
すでにあたりはとっぷりと日が暮れ、ちかちかと電灯が光りだしている。
そんな薄暗い町中を、やはりふらふらと歩く銀時。
ざざざ。
微かな音に、足を止めた。
「…?」
音のした方向を、じっと見る。
ざ。
闇に紛れうごめく、
黒。
「―――」
月光に照らされる、
その、眼。
張り詰めた空気の中、
銀時は、
―――ふっと踵を返した。
+
「お手柄――真選組、攘夷派浪士を大量検挙…ね」
銀時はぼそぼそと口に出すと、あとは興味がないというようにぽいと新聞を投げた。
昨日の、アレか。
新聞に「桂小太郎」の名前は無かった。どうやら別の攘夷派グループだったらしい。
皆暇ですね。
銀さんは今日も世のため人のためお仕事ですよ。
「ちょっと銀さん、今日は早く出るとか言ってませんでしたっけ?」
新八が言うと、銀時はあーだとかうーだとか妙な声を出して、ぼりぼりと頭を掻いた。そしてごそごそと辺りを探る。
「何やってんですか」
「…いや、糖分」
その手は飴を探り当てた。
かぽっとヘルメットを被り、原付に跨る。
今回の仕事は少し遠出で。
「城」の近くまで行かなければならなかった。
―――夕暮れで、町は真っ赤に染まり。
ぶつぶつと独り言を言いながら、銀時は四角い飴をぽいっと口の中に入れた。
「…あ〜…ったくよお…あれだけこき使っといて適当な報酬出しやがって…」
とんとんと肩を叩き、ふっと顔を上げると。
…おいおいおい。
また見覚えのある黒が映った。
ふたつ。
相変わらず目つきの悪いあいつと。
ストーカーゴリラ。
ゴリラは相変わらずがははと笑ってる。
どんどん近づいてきているが、こっちには気付いていないようだ。
好都合。
会ったら絶対めんどくさいことになる。
銀時はさっさと原付で去ろうとした。
次の瞬間、
銀時は、停止した。
視線の先では、近藤が笑いながら土方の背中をバンバンと叩いている。
そして土方は。
―――なに、その顔。
なに笑ってるの、君。
がらがらがら、と、何かが崩れた。
きーん、と鳴る耳に、声が届く。
お上に報奨金まで貰ったぞ。
すごいぞ、トシ。
ほとんどお前の手柄だ。
今日は宴会だな。
…そうだな。
ああ、そう。
へぇ。
それだけで、笑うの。そんなにあっさり。
なにそれ。
ていうか、
俺は何考えてるの。
銀時は、
がりり、と飴を噛み砕いた。
+
「や。多串くん奇遇だね」
「…多串じゃねぇ。…お前その台詞何度目だと思ってる、銀髪」
その眼。
いいねぇ。
「さあねえ」
銀時はにやにやと笑って言う。
土方はぎり、と銀時を睨んだ。
「失せろ」
不思議なくらい。
不気味なくらい。
恋に落ちてく。
「やだよ。もっと銀サンとお話しようよ」
「…見回り中だ」
ねえ。
返事してくれるようになったのはいつから?
柄に手を掛けなくなったのはいつから?
声を荒げなくなったのはいつから?
少しずつ会話が続くようになったのはいつから?
「見回り付き合うから」
「テメェ、仕事は」
「お休み」
暇人が、と苦々しく呟く君が。
拒まなくなったのは、いつから?
「多串くん、甘味屋行こうよ」
「…見回りだっつってんだろ」
「いいじゃんちょっとくらい。奢ってよ」
「調子に乗るな」
土方はぴしゃりと言い放ち、すたすたと歩く速度を速める。
銀時も速度を上げ、続く。
まだ、
笑い顔には程遠いけど。
その顔が、
ほんの少し、
穏やかになるから。
また、恋に落ちる。
終
昔のすぎてやばい。加筆修正する気力もない。すいません。
>back